はじめに
超弩級のパフォーマンスの使い道
さっそく目の前のGTのドアを開けます。もちろん、前方に跳ね上げる「ディヘドラルドア」と呼ばれるドアを開けると、シートとの間を隔てるようにカーボンの太くゴツいサイドシルが現れます。
これでまず“コイツはただ者ではない”という感じをビシバシ伝えてきます。おまけにサイドシルを跨ぎながら上体をねじり、地面に座り込むような位置にあるシートに着座するのです。もうこれだけで、すでに「スポーツ」なのです。こうした“特別の儀式”を用意することが、ピュアスポーツとしての主張のように感じます。
スポーツカーファンに言わせれば「これこそマクラーレン」と言うかもしれません。こちらとしても、この一連の儀式によって、スポーツカーに乗る資格があるかどうかを試されているような気分になります。少々大げさかもしれませんが「これしきの不自由を我慢できなければ超弩級のパフォーマンスと異次元の運転感覚を味わうことを許さない」と言った感じでしょうか。そしてもし、助手席にスカートの女性を招くことがあれば、確実に嫌な顔をされます。
ところが一旦、シートに収まってしまうとこれがなんとも心地いいフィット感が体を包み込みます。シートの出来の良さだけでなく、ドアやセンターコンソールとの距離感が絶妙で、なんとも言えない適度なタイト感があり、収まりが良く、ピタリと体にフィットする感覚なんです。クルマにとっての居住性の良さとは、なにも広々としていることが最善ではありません。少しばかり狭くても、心地よく過ごせる空間というのは確保できるものなのです。それはまるでお気に入りのジョギングシューズのようなフィット感なんです。
実はこの感覚、他のマクラーレンのモデルと同じなんです。実用性も両立しましたというGTですが、コクピットの様子は走りに徹したピュアモデルそのもの。ここにマクラーレンならではのこだわりのようなものを感じます。
それにしてもイギリスのスポーツカーって本当に体との一体感を創り出すのが上手いですよね。ロータスやジャガーの体の収まりの良さは、いつ乗っても感心しますし、このフィット感があるからこそ思いのままに操れ、楽しく走れると同時に、驚くほど疲れも少ない。この辺の程合いをよく知っています。
さて、ちょっぴり気分が盛り上がってきたところでエンジンのスタートボタンをプッシュします。
ドライバーの背後に搭載される4リッター、V8ツインターボ、最高出力620馬力、最大トルク630Nmのエンジンが爆音と共に目を覚まします。10秒ほどすれば甲高いアイドル音は収まり、重低音に変わりますから、周囲をエンジン音で威圧する感じはずいぶんと収まるのですが、やはり早朝の住宅街ではシャッター付きのガレージでもない限りご近所迷惑になる迫力です。
そのV8エンジンですが、その気になれば0から100km/hまでの加速時間は3.2秒、0から200km/hまでの加速時間が9.0秒、そして最高速度326km/hという世界を見させてくれる実力の持ち主です。このクラスとしては相当に軽量な1,483kgのボディを軽々と別世界に運んでいってくれるわけです。