はじめに
速く走らなくても楽しいGT
マクラーレンには上からハイパーカーの「アルティメット」シリーズ、次にスーパースポーツの「スーパー」、そして「スポーツ」シリーズという具合に、パフォーマンス上のヒエラルキーがあります。その図式から言えばGTはスーパーとスポーツの間というか、新シリーズとして新しい流れを作るポジションのような位置になるかもしれません。事実、マクラーレンはGTを皮切りに実用シリーズも確立することを考え、その第一歩ということになるでしょう。
さっそく走り出してみました。ゆっくりと慎重に走り出し、5分もすると、エンジンが持っている凶暴な一面などはすっかりどこかに消え失せていることに気付きます。市街地ということもあるのですが、穏やかな乗り心地、ノーズの短さによる見切りの良さ、まるでオートクチュールのようなフィット感、ステアリングの自在感、そのすべての感覚がジャストなんです。「良いスポーツカーはゆっくり走っているときも楽しい」。まさにその公式が当てはまる感触なんです。体に馴染む速さもあって市街地がこれほど楽しいとは……。何も高速道路やワインディングを駆け回ることだけじゃなく、市街地走行でも、ドライバーに“速く走ることを強要しない”気軽さを存分に楽しみながら時間が過ぎていきます。
ただひたすらに持てる力を誇示するようなスポーツカーではない、上品さを強烈に感じたのです。もちろん高速道路に乗り込めばスーパースポーツの名に恥じない走りを見せてくれるのですが、マクラーレンの新しいGTは、メリハリがきいていて柔軟を使い分けることができるのです。だからこそ真の大人の乗り物として成立するのです。
そして何より頼もしいのは、フロント・ボンネットには旅行用トランクが収まるほどの容量150リットルのスペース、リアハッチを開ければ420リットルのラゲッジスペースを備えています。こちらにもスーツケースやゴルフバック1セットぐらいは簡単に飲み込んでくれますから、GTとして大陸の横断旅行にも十分使えそうです。望めばいつでも本物のスーパースポーツの実力を引き出せ、一方でショッピングなど実用でも気兼ねなく使えるのです。
久しぶりに“魅力的なGT”でしたが、そのお値段、26,450,000円。ここだけはお気軽に、というわけにはいきませんね。