はじめに
日曜夜に半沢直樹が帰ってきました。2013年に放送されて高視聴率を記録し、「やられたらやり返す、倍返しだ!」の名セリフを生んだ池井戸潤原作のTBSドラマ「半沢直樹」の2シーズン目が、7月19日から始まり、8月9日に第4話を迎えました。
前シーズンで東京中央銀行幹部の不正を暴いたものの、子会社の東京セントラル証券に出向した(飛ばされた)半沢直樹が、再び巨大銀行グループで奮闘するドラマです。
上戸彩さんが演じる半沢花、香川照之さんが演じる大和田暁など、主要な登場人物が前シリーズからの存在感をさらに増している中で、第3話に登場した片岡愛之助さんが演じる黒崎駿一統括検査官こそ、前シリーズ以来最も印象に残る「敵役」と言っても過言ではないでしょう。
日銀で検査業務(日銀では考査と呼びます)を担当し、金融庁にも出向していた私(筆者)は、この黒崎統括検査官(※)は、敵役どころか、半沢直樹の窮地を救い、日本の金融をあるべき方向に導く「ニューヒーロー」として大きな期待を抱いてみているのです。少し粘着質なのが玉に瑕ですが(笑)。
(※)今シリーズの第3話で登場した黒崎統括検査官の所属は「証券取引等監視委員会」でしたが、ここでは「金融庁」と一体で捉えて記載しています。
金融庁には出向や中途組が多い
黒崎統括検査官は、前シリーズで「疎開資料」の捜索に固執しましたが、今回はクラウド上の「隠し部屋」の重要資料の内容に肉薄していきます。7年間のシリーズの進化によって、捜索の対象も、紙の資料からクラウド上の重要ファイルに進化しました。そして、それを捜索する金融庁の手腕も、それに負けることなく進化していました。
実は、金融庁は民間の第一線の実務に精通しているプロを中途採用しています。金融庁のホームページには、「専門知識・金融実務経験を有する方」という採用情報を掲載しているページがあり、弁護士、公認会計士、金融実務経験者、ITの専門知識を有する者、などについて募集を行っていることがわかります。
また、財務省や日本銀行の他、メガバンクや証券会社などからも出向者を受け入れて、2年から3年間、金融庁の職員として勤務した上で出向元に戻るといった人事も数多く行っています。先述のとおり私も、2015年から2年間、日本銀行から金融庁に出向していた経験があります。その際に、「聞いていた以上に出向者や中途採用者が多いなぁ」と思った記憶があります。
金融庁は2000年の7月に設置された新しい官庁です。財務省の前身である大蔵省の接待汚職事件などを受けて、金融機関の監督・検査や制度企画などの事務が大蔵省から移管されて発足したのです。
もっとも、新しい官庁でプロパー職員がいない中で、金融危機や金融技術の進歩などもあって専門性の高い職員が必要になり、背に腹は変えられずに中途採用や出向でなんとかスタッフの不足を補ってきたという経緯があります。
必要に迫られて進めてきた中途採用・出向受け入れ戦略は、変化の早い最近の金融業界の中でも、金融庁の強みとして民間金融機関に制度企画や検査で負けないための切り札になっているのです。今回のクラウド上の隠し部屋やシュレッダーくずの復元作業なども、民間のITや監査経験を持つ中途採用の金融庁職員のノウハウが生かされたものかもしれません。