はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。
二世帯同居している父が高齢になり、「もう運転はしない」とのことで車を譲り受けました。中古車価格を調べてみると300万円くらいなのですが、贈与税の申告は必要でしょうか? 売買したものとして父にお金を払えば贈与税の申告は不要ですか? もし申告する場合、売買する場合とも、価格は何を根拠に決めたらよいのでしょうか?
(40代前半 既婚・子供あり 女性)
野瀬: うーん、答えにくいご質問ですね(笑)。なぜかというと原理原則の法律論とおそらく実際の世の中の実態に乖離があるお話だからです。
法律としてのルール
まず、税理士という立場から、原則論をお話しします。私の立場をお察しください。
おっしゃる通り、贈与税の対象になります。車の価格は300万円程度ですので、原則通りに考えると、その300万円が「売買実例価格」として基礎控除の110万を超える部分に贈与税が課せられることになります。
税率は10%になりますので、おおよそ20万円程度の納税の義務が生じます。中古屋の査定金額というのは立派な目安になるのです。
また、売買した場合であっても、市場相場が300万円なのであれば、それよりも明らかに安い値段で取引した場合は贈与税の対象となります。
例えば、10万円で売買したのであれば、「300万-10万円」の290万円の贈与を質問者の方が受けたと解釈できるので、110万を超える部分について贈与税の対象になります(国税庁サイト)
どうしても贈与税の対象にしたくないのであれば、売買金額を190万にすればよいでしょう。そうすれば基礎控除110万に収まるので贈与税は生じません。手書きでもよいのできっちり契約書を作り、お金のやり取りも現金ではなく銀行振込にして記録を残しておきましょう。
ただ、その場合であっても「自動車取得税」はかかります。税率は3%です。
いくらに対して3%かかるのかということが中古車の場合わかりにくいと思うのですが、これは実際の「売買価格」ではありません。新車で購入すると予想される価格に年数に応じた係数を乗じて計算することになります。
例えば、2年ものの場合、0.46程度の係数をかけることになります。6年ものだと0.1になり、7年だとゼロになるわけです。この自動車取得税の納付は捕捉されやすいので、忘れずきっちり納付してくださいね。
実際の世の中ではどうなっているのか
ただ……法律論はさておき実際問題はどうなのでしょう。
私は関西のなかでは比較的お金持ちの子女が通う大学に通っていたのですが、同級生には車を持っている人がたくさんいました。ただの車ではなく大型車や外国車です。うらやましい限りですね。ちなみに私は、都会に住んでいることもありますが、生まれてから現在まで一度も車を所有したことがありません……。
さて、この同級生たち、学生なので親名義の車を使っていたとは思うのですが、彼らが社会人になると、おそらく名義を変更したのでしょう。大阪や東京など就職した街に車を持っていっていました。
妬みも含めた私の推察……いえ、邪推ですが、おそらくこのケースでは贈与税の申告はしていなかったと思います。
彼らは十分にお金持ちなので、税金を払う意思がないとは思わないのですが、おそらくはこの場合に贈与税がかかることを知らないのか、手続きが面倒なのでやっていないだけでしょう。
税務署側が仮に調査に入ったとしても、数十万円程度の納税なので、費用対効果を考えてあまり気にはしていないのだと思います。
結論は「原則としては贈与税の対象となるが、税額が小さいこともあり、あまり厳密には処理されていない」ということになります。私の立場もありますが、お金持ちの学生からはもっとたくさんとってほしいですね(笑)。
また、その際の金額の計算方法としては、先ほど出ました中古車屋の査定価格を判断材料に使えばよいでしょう。
最後にひとつ、あまり厳しくないとはいえ、近いうちに相続などが起こった場合には、土地や預金などほかの相続財産と一緒に厳しく見られる可能性がある点だけはご注意くださいませ。