はじめに
試行錯誤する高級レストラン
外出制限という試練を逆手に取って、地元フランス人の心を掴んだ三つ星シェフも存在します。フォーシーズンズ・ジョルジュサンクの三つ星レストラン「ル・サンク」のシェフ、シモーネ・ザノーニ氏は、外出制限中にインスタグラムで配信したレシピ動画で一躍ポピュラーな存在になりました。
「ステイホーム中、料理動画配信を始めたシェフやパティシエはあまたあったが、ザノーニ氏のレシピはインスタ映えとシンプルなレシピ、説明のわかりやすさが特に際立っていた」と、前出のジャーナリスト、カトラン氏は分析しています。
フォーシーズンズ・ジョルジュサンクはこの話題性を十分に活用し、ホテル再開に先駆けた6月、レストランの再営業に踏み切りました。8月20日付けの新聞「ル・パリジャン」によると、6月19日~8月1日、レストランは満席だったようです。ローカルな客層を相手に、予想を超えた快挙と言えるでしょう。フォーシーズンズ・ジョルジュサンクのホテルとしての再稼働は、9月22日です。
世界で最も多くの三つ星を獲得したシェフも動いた
有名シェフの大御所、アラン・デュカス氏も、外出制限中から行動を続けたシェフの一人です。デュカス氏は、日本やアメリカなど世界各国でレストランを経営し、世界で最も多くミシュランの星を獲得するシェフです。
外出制限から1カ月を待たず、デュカス氏は飲食業界に対してニューノーマルのアイデアを提示し、政府に対しては飲食施設の安全性を訴え営業再開への理解を求めるなど、止まってしまった飲食業界・ラグジュアリー業界を安全に再稼働すべく尽力しました。
その一つが4月にネットを賑わせた、デザイナー、パトリック・ジュアン氏による間仕切りのイラストでした。彼は、グループ・デュカス・パリのレストラン内装を多く手がけるデザイナーです。デュカス氏がアイデアを求め誕生したイラストは、身近にあるものを使って誰でもシンプルかつ洗練された仕切りが作れることを提案するものでした。
アラン・デュカス氏のレストラン「アラール」に設置された間仕切りと空気清浄システム
その後、デュカス氏は医師や専門家を招いて安全対策の研究を進め、レストラン内の空気の動きを最小限にとどめ、完璧な空気清浄が可能なシステムを開発。5月28日、レストラン「アラール」に設置された間仕切りと空調のシステムが、フランス国立科学研究センター理事長により「レストラン内の感染確率を大幅に減少させることができる」と認証されました。
デュカス・パリ広報によると、このシステムは現在レストラン「アラール」で実際に活用されており、他のレストランでも採用を検討中とのこと。東京の「ベージュ」や「ブノワ」にも、このシステムが登場するかもしれません。