はじめに

婚姻は両性の合意のみに基づいてできるのが現行民法なのですが、今の時代にも「家柄」や「釣り合い」などと言う人たちがいます。どんなに好きでも「結婚しないほうがいい」ということがあるのでしょうか。


ふと感じる、育ちの違い

彼との結婚が暗礁に乗り上げているというのは、会社員のマサミさん(32歳)です。3歳年上の彼は医師として病院に勤務しています。4年前、マサミさんがある病気になって入院、その後も通院しているうちに親しくなっていった主治医です。

「たまたま病院近くのカフェで会って一緒にお茶をしたのがきっかけで、約束しないまま毎週、そのカフェで会うようになりました。2ヶ月ほどたったころ、彼からつきあってほしいと言われたんです」

ただ、マサミさんはどこか臆するものがありました。なぜならそれまでの会話から、彼の家の「格」が自分の家とはまったく違うことに気づいていたからです。マサミさんの父は町工場の職人、母は近所のお弁当屋さんで働いています。

「決して裕福ではなかった。どちらかといえば貧乏でした。そんな中で、両親は私と妹を育ててくれました。私は大学まで行きました。必死にアルバイトもしましたが、それでも学費の大半は出してもらった。両親のことは誇りに思っていますが、彼から見たらどうなのか……」

なにげなく話した言葉から察すると、彼の家は武家の末裔で親戚縁者は学者、医師、弁護士など社会的に地位のある人ばかり。彼は家柄など気にしたふうもなかったのですが、それを聞くとマサミさんは身の縮まる思いでした。

「学歴なんて意味がないと私も頭では思っているんですが、うちの両親は自分たちに学歴がないからと私を大学まで行かせたのも事実。なんだかんだ言ってもこだわっている。それが財産がないからでもあると思うんです。せめて学歴だけでも人並みにって。彼はそういう苦労をまったく味わわずに大きくなったんだろうなと思う場面がよくありました」

食事に行っても、彼は値段などまったく気にせず食べたいものを注文します。お世話になった人にプレゼントをしたいからと買い物につきあったとき、5万円ほどする万年筆をまったく躊躇なく買っていました。どれだけ世話になったのかと尋ねると、マサミさんの感覚では「数千円の菓子折でいい程度」だったそう。

「だから当初は結婚など考えてもいませんでした。むしろ彼のような人と恋愛できればそれでいいとけっこうドライに受け止めていました。別世界を見る楽しさだけでいい、と」

彼自身は実直な人でした。彼女の誕生日にはステキなレストランを予約して、夜景の見えるホテルで祝ってくれました。会うたびに「今日もかわいい」「いつもきれい」と言ってくれます。女性が喜ぶツボを押さえていました。