はじめに
プロポーズされたけれど
3年近くつきあってきましたが、マサミさんから結婚の話を出したことはありません。仕事がおもしろくなってきたこともあり、特に結婚したいと思わなくなっていたのも事実です。ただ、両親からは「ひとりじゃ寂しいから結婚すればいいのに」とたびたび言われていました。
「そんなとき彼からいきなりプロポーズされたんです。予想していなかったのでビックリしました。とっさに出たのが『私なんてあなたの家にふさわしくない』という言葉。彼は『何を言うんだよ。家なんて関係ないよ』と笑っていました。こんなに私を信じて愛してくれているんだとうれしかった」
彼に促されて、彼の実家に行くことになりました。ただ、そこで彼女は非常に傷つく事態となります。
テストのような実家訪問
「彼のご両親と姉夫婦が迎えてくれたんですが、いきなり『ご両親はどちらの大学?』と聞かれました。彼が『失礼だよ』と言っていましたが、ご両親は『そのくらい聞くのが当たり前でしょう。マサミさんが〇〇家の人になるなら、当然、許容範囲というものがあります』って。許容範囲って何と思いましたが、許せる大学と許せない大学があるようです。父は大学を出ていませんから、想定外なんでしょうけど」
身上調査のような時間が過ぎ、マサミさんは疲れ果てました。疲労と緊張感から、彼女は出されたケーキをうまく口に運ぶことができず、こぼしてしまいます。すると彼の母が言いました。
「こういう場面で粗相をするようなことじゃ困るわね」
ただ、彼も父親も聞かなかったように反応しません。あとから聞くと母親はだいたい誰に対してもケチをつけるので知らん顔しているのがベストだそう。
「でもそんなことを知らない私はますます焦ってしまって。あげく母親に『うちは3人子どもがいますけど全員医者なの。この子の兄と姉の配偶者も医者。子どもを医者にするにはお金がかかるんですよ。配偶者も医者でないと元がとれないの』って。おっとりとした口調で言うのですが、中身は強烈ですよね。つまり私が医者でなければ結婚には反対ということですから」
やっとの思いで解放され外に出ると、彼が一緒に歩きながら「強烈なおふくろでごめんね」と言いました。
「気にしなくていいから、オレたちはオレたちの結婚をしようよと彼は言ったけど、素直にそうねとは言えなかった」
それが今年の初めのこと。以来、コロナ禍によってしばらく彼とは会えない日々が続いていました。ようやく夏に会えてつきあいも復活しましたが、彼が多忙なこともあって今は結婚話は棚上げ状態です。
「彼は私の答を待っているようです。でも実際に結婚ということになったら、うちの両親があちらのおかあさんに傷つけられるのは目に見えている。結婚後、私が嫌な思いをするのも確実。彼はあの調子で気にしなくていいからを繰り返すでしょう。そんなふうに事態が見えているのにあえて結婚していいものかどうか……。彼のことは好きですが、結婚することによって両親が不快な思いをするなら、あきらめたほうがいいのか。迷っています」
彼の立場では、マサミさんの苦悩も心から理解はできないのかもしれません。マサミさんはもうしばらく考えてみたいとつぶやきました。