はじめに
日本の菅義偉首相は10月26日の所信表明演説で、温暖化ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を掲げました。目標設定で先行するEUと足並みを揃え、地球温暖化対策に積極的な姿勢を世界にアピールする狙いがあります。
2015年12月に採択された「パリ協定」では、産業革命以前からの気温上昇を1.5度以内にする目標があります。実現するには2050年までに世界全体の温暖化ガス排出量を実質ゼロにすることが必要です。
EU以外では、CO2最大排出国である中国が2060年までの実質ゼロを目標に掲げるほか、米国ではバイデン大統領候補が温暖化対策に積極的な姿勢を見せており、「脱炭素」への取り組みが世界的に加速しそうです。
EU、中国では「水素社会」実現に向けた取り組みを加速
EUは、年までに再生可能水素をメインのエネルギーにすると宣言し、実現に向けた取り組みを加速させています。
再生可能水素をエネルギーとするには、水を電気分解して生成するグリーン水素の導入が必須です。2030年までに40GW(ギガワット)規模の水電解プラントを開発し、水素1000万トンの生産を目指しています。
また、新型コロナからの復興基金7500億ユーロ(約92兆円)のうち約3割を温暖化対策にあて、「グリーンリカバリー」の実現を目指します。
中国は、政府の強力な新エネルギー車(NEV)政策により、今やEV(電気自動車)で世界最大市場となりました。しかし、技術的に難度の高いFCV(燃料電池車)の普及は進んでいません。
中国政府はFCVに対する販売補助金を撤廃する一方、FCVの中核技術を開発する企業に奨励金を与える新たな制度を導入し、FCV開発でも世界的な主導権を確保することを狙っています。
日本でも「脱炭素」への取り組みが加速
日本は環境技術で遅れをとっており、菅首相が掲げた「温暖化ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする目標」を達成するには、官民で年10兆円超の投資が必要との試算もあります。
まずは電源構成で再生可能エネルギー比率を高める必要があり、政府は2030年までに洋上風力発電を全国に整備して原発10基分にあたる10GWの発電容量を確保する計画を立てています。
再生可能エネルギーを最大限活用するためには送電線の増強や、供給が不安定な欠点を補う大容量の蓄電池の量産体制も必要で、政府は財政支援に取り組む見通しです。太陽光、風力、バイオマス、地熱などの再生可能エネルギー関連事業や蓄電池関連事業を手がける企業には追い風となりそうです。
また、究極のクリーンエネルギーと言われる水素にも期待がかかっています。水素を利用したFCVはトヨタ自動車(7203・東証1部)やホンダ(7267・東証1部)が販売していますが普及が遅れています。
液化水素でトップの岩谷産業(8088・東証1部)が全国各地に水素ステーションを整備しており、菅首相が温暖化ガス2050年までの実質ゼロの目標を掲げると伝えられると同社の株価は急騰し、実質29年ぶりの高値をつけました。
来年の東京オリンピックではトヨタ自動車のFCV「MIRAI」が公式車両となる予定で、世界に日本の水素技術をアピールするチャンスとなりそうです。
日本の成長力を左右する競争の号砲は鳴りました。今後株式市場では「脱炭素」関連銘柄に注目が集まりそうです。