はじめに

婚約破棄が大前提?

1ヵ月後、彼の弁護士を名乗る男性から手紙が来ました。まずは3人で会う時間を作ってほしいとのことだったので、彼女は日時を指定、3人で会ったのです。

「すると彼の弁護士を名乗る男が、『あなたから婚約を破棄するということでいいんですよね』って。婚約破棄が大前提で話が始まったんです。細かく数字が書かれた紙を出され、今まで彼が私に使ったお金の明細がありました。指輪はもちろんですが、送ってくれたときのタクシー代や、缶コーヒー108円なんていうものまであって……。どういう男なのかと改めて思いました。『彼はもともと几帳面だから家計簿をつけていたんです』と言い、彼もうなずいていました」

それにしても、と彼女は言います。そのとき書かれていたのは指輪をはじめ350万円、それに慰謝料250万円、合計600万円とありました。とはいえ、その場で請求されたわけではなかったそうですが、その額に彼女は目を瞠りました。

どうしても腑に落ちなかった彼女は、彼と共通の知り合いを訪ねてみました。その人からさらに彼と古いつきあいのある人を紹介してもらうと、彼は以前、婚約破棄だとして相手の女性に300万円を請求し、怯えた彼女が全額支払ってしまったことがあると聞かされました。それに味をしめて今回もやっているのかもしれないと思ったとキミカさんは言います。

「私は絶対に払わない。そもそも婚約なんて成立していませんから。プロポーズもされていないし、双方の両親にも会っていない。弁護士の友人が協力してくれて彼を呼び出そうとしたのですが、彼は連絡がつかない。彼の弁護士と名乗った人にも連絡がつかない」

自分のための指輪だったのか…

しばらくたって彼はキミカさんの動きを知ったのか、「指輪だけ返してくれれば、もうなかったことにする」と言ってきました。それではすまないと思いましたが、これ以上、彼と関係を続けたくなかったので指輪を送り返したそうです。

「返すとき、ふと思ったんですよ。この指輪、前の婚約破棄騒動のときにも使われたものなのではないか、と。私のサイズにはちょっと大きかったし。新手だか旧式だかわからないけど、これも詐欺の一種じゃないですかね。そもそも8ヵ月程度のつきあいで、ちゃんとプロポーズせずに指輪を贈られたのもヘン。ケンカをふっかけて婚約破棄にもちこませるという手口なのかもしれません」

その割りには出会ってすぐではないところが妙だけどと彼女は笑いました。どこでどんなことが身に降りかかってくるかわからないもの。キミカさんも、「この指輪はどういう意味なのかときちんと聞くべきでした」と反省しているそうです。

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