はじめに
家をどうするかの方向性を決めることから
――具体的には何からはじめたらいいでしょうか?
まずは、話し合うこと。今年は難しいかもしれませんが、年末年始やお盆など、みんなが集まったとき「この家、どうしようか?」と相談するといいでしょう。
所有者である親の気持ちは大切ですから、この先、どこに住みたいのか? 誰に引き継ぎたいのか?を聞いておく。一方で相続する側にとっては必要な資産なのか、不要な資産なのか。今後、有効活用したい、持ち続けたい、さらに子供に相続させたい資産なのか。それぞれの意思を確認し、書面化しておくといいと思います。
――親や兄弟姉妹がどう考えてるのか、実際にはわかりませんもんね
それぞれの気持ちを確認し、たとえば、家と土地は手放すという方向性が決まれば、4LDKの大きな家にお母さん一人で住んでいることはないから、駅前の便利でコンパクトなマンションに住み替えようとか、元気なうちに売却や賃貸の手続きを進めようとか。いい状態で先に進めることができる。そこまでしておけば、あとは何かあっても名義の変更だけで済みます。
――空き家問題は親の「終活」でもありますね
運転免許証の返納を説得することすら大変ですから、親の万が一について話を切り出すのは難しいかもしれません。しかし、空き家にして放置しておいても、先のようなリスクを抱えることになりますし、その間、ずっと固定資産税はかかり続ける。「お金を生み出す資産」になるか、「お金が出ていく負の資産」になるのかの分岐点は、事前の話し合いにあるのです。
――確かに
また、うちにくるご相談のうち、親族間トラブルに起因するものも少なくありません。
たとえば、土地や家屋を子供3人の共有名義で相続した場合、3人の意思が同一になっていないと、先に進みません。売りたい兄と売りたくない弟2人が対立して、「ハンコを押してもらえない」「そもそも不仲で連絡先も知らない」といったケースは珍しくありません。
やはり、書面で残しておくことが大事です。兄弟それぞれが親から口頭で「お前にやる」と言われ、「あの家は私がもらうはずだった」と骨肉の争いになってしまいます。
――ドラマみたいな話ですが、本当にあるんですね
事実上、すでに所有している場合も同様です。現在、相続登記は義務付けられていませんので、名義がひいおじいちゃんのままということも普通にあります。もし、名義が変えられてなければ、遺産分割協議書を作成し、相続登記をしてから売却されたほうが良いと思います。
現在、相続登記を義務化しようという動きがあります。今現在、相続登記がされていない不動産も対象になるとも言われているので、今後、放置しておくわけにもいかなくなるでしょうね。
――どうしようもなくて空き家になることがある、というのがよくわかりました
空き家問題は他人事ではありません。団塊世代の持ち家率は80%以上だと言われています。2007年にこの世代の大量リタイアが問題となりましたが、2025年にはこの世代が後期高齢者となります。かりに、一人っ子同士が結婚して自分たちでマンションを購入したら、夫の実家と妻の実家、2軒の空き家の管理を担うことになります。
管理するお金がない、相続問題で揉めているなど、「空き家」として放置しておく理由はいろいろあります。しかし、先延ばしにすればするほど「負のスパイラル」にはまってしまう。
「空き家」が活かせる資産になるか、“負動産”となってしまうかの分岐点は、皆さんが思っていいるよりはるか手前にあるのです。
伊藤雅一 NPO法人「空家・空地管理センター」理事。
同センターは、空き家・空地の管理のほか、各種調査やデータを公表、活用に関するコンサルティングを行う。渋谷区や所沢市などと自治体と連携し、セミナーや相談会を実施。東京都の「空き家利活用等普及啓発・相談事業」の実施事業者にも選定されている