はじめに

思い込みによる自信の功罪

自分で自分をエライという人間に偉い人はいません。自分で自分をエライと自画自賛する人は、他人は誰も自分を認めてくれないと告白しているお粗末人間に過ぎないのです。

しかし、自分で自分をエライと思っているうちに、本当に自分はエライと思い込んでしまうのが人間の悲しい性(さが)であります。

この思い込みによる自信という効果は、正しい使い方をすれば、本人にも周囲にもよい結果をもたらしますが、自信が過信や慢心、さらには傲慢へと増幅すれば、最後には破綻という悪しき結果を招くことになりかねません。

人の評価ばかりではありません。株式市場や為替相場でも、それぞれの銘柄や通貨の値段が正しく評価されていることは少ないといいます。常に高すぎるか、安すぎるのです。腕利きの相場師は、このギャップから利益を抜くのです。

人の批評はありがたく受けること

では、人生を誤りかねない「過信・慢心・傲慢」という心の罠からは、どうすれば免れることができるのでしょうか。

先述したように、自己評価するときは2割引で、他人を評価するときは2割増しでやればよいのですが、それがなかなかできないのも残念な現実です。

ですが、できることもあります。最も手軽で効果的な方法は、第三者の批評に、謙虚に積極的に耳を傾ける(Active Listening)ことに尽きます。
多くの人は、他人の評価は頼まれなくても積極的にやります。こうした機会を有効に活用すればよいのです。
他人の評価というのは、それがどんなに耳の痛い話であっても、利害関係のない人からの評価であれば現実に近いと考えてよいのです。

そして、評価には、何をどう改善すればよいのかについての暗示(ときには明示)が含まれていることも多くあります。
だから、他人からの評価、特に耳の痛いことを言ってくれる人の言葉には、精一杯真摯(しんし)な態度で、丁寧に聴くこと、聴いた後には一言お礼を欠かさないことも大事なのです。

真摯で丁寧な態度で話を聴く相手に対しては、批評する側も、はじめは自分の優越感を満足させたいだけだったとしても、次はこちらのために何か役立つことを言おうと考えるものであります。

「巨耳細口(きょじさいこう=耳は大きく開いて人の言葉を聴き、口は言葉少なく控えめに)」を心がけたいものです。


著者プロフィール:新 将命(あたらし まさみ)
1936年東京生まれ。早稲田大学卒業。株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなど、グローバル・エクセレント・カンパニーの社長職等を経て、2003年から2011年3月まで住友商事株式会社のアドバイザリー・ボード・メンバーを務める。「経営のプロフェッショナル」として50年以上にわたり、日本、ヨーロッパ、アメリカの企業の第一線に携わり、いまも様々な会社のアドバイザーや経営者のメンターを務めながら長年の経験と実績をベースに、講演や企業研修、執筆活動を通じて国内外で「リーダー人財育成」の使命に取り組む。おもな著書に『経営の教科書』『リーダーの教科書』(以上、ダイヤモンド社)、『上司と部下の教科書』(致知出版社)、『経営理念の教科書』(日本実業出版社)がある。

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(この記事は日本実業出版社からの転載です)

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