はじめに

消費者向けECの物販系分野は市場規模が拡大

ECとは、インターネット上でモノやサービスを売買する取引全般を指します。スマートフォンなどの情報技術(IT)端末の普及や共働き世帯の増加といった社会構造の変化と共に、多くの人にとって日常的な取引形態となっています。

経済産業省が7月に公表したECに関する市場調査によると、2020年(1~12月)の国内の消費者向けECの市場規模は、物販系とサービス系、デジタル系の3分野合わせて19兆2,779億円で、前年比0.4%減となりました。全体としては微減でしたが、宅配便が関わる物販系分野では同21.7%増の12兆2,333億円と、2ケタの伸びを記録しました。また、国内の消費者向け商取引のうち物販系分野では、ECが占める比率(EC化率)が、2013年には3.9%だったのが2020年には8.1%へ、7年間で2倍以上となりました。

EC化率を商品カテゴリー別で見ると、「書籍、映像・音楽ソフト」が43.0%、「生活家電、オーディオ・ビジュアル(AV)機器、PC・周辺機器等」が37.5%、「生活雑貨、家具、インテリア」が26.0%で高くなっています。「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」と「生活雑貨、家具、インテリア」は、コロナ禍に伴う巣ごもり消費の影響で市場規模も大幅に拡大しており、「書籍、映像・音楽ソフト」も含めて、EC化率の高い商品カテゴリーの運搬には宅急便の利用が多いと思われます。

国内市場は寡占状態だがシェア変動を狙う動きも

国内の宅配便市場は、少数の企業が市場を支配する寡占状態になっています。2020年度の国内の宅配便取扱個数のうちトラック運送のシェアは、「宅急便」ブランドのヤマトホールディングス(HD)(銘柄コード9064)傘下のヤマト運輸が43.8%で首位。次いで、「飛脚宅配便」ブランドのSGHD(9143)傘下の佐川急便が28.2%で2位、「ゆうパック」ブランドの日本郵政(6178)傘下の日本郵便が22.8%で3位と続き、大手3社のシェアは90%を超えます。また、「フクツー宅配便」ブランドの福山通運(9075)が2.9%で4位、「カンガルー便」ブランドのセイノーHD(9076)傘下の西濃運輸が2.2%で5位となっており、大手5社でほぼ100%のシェアを占めます。

宅配便大手3社では首位のヤマト運輸のシェアが抜きん出る中、業界2位の佐川急便と同3位の日本郵便は9月、物流サービス事業の協業で基本合意したと発表しました。

協業内容の柱は、日本郵便が強みをもつポスト投函型の小型宅配便「ゆうパケット」と、世界120以上の国・地域へ届けられる国際郵便サービス「EMS」を活用したサービスを佐川急便でも取扱うとのことです。また、佐川急便が強みをもつ冷蔵・冷凍輸送サービス「飛脚クール便」を、日本郵便の「ゆうパック」の顧客にも提供します。

協業により荷物を融通し合うことで両社の強みを活かすだけでなく、弱みを補充することにもなり、ヤマト運輸に対抗する狙いもありそうです。これに先立って、日本郵便は昨年12月に楽天グループと物流分野で提携し、今年7月には合弁会社「JP楽天ロジスティクス」を設立。物流分野で攻勢をかけており、宅配便業界のシェア変動につながる可能性があります。

<文:投資情報部 碓氷広和>

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