はじめに

日本企業の収益逼迫の現実

個人投資家として気にしなくてはいけないのは、この世界的なインフレ懸念が企業業績に与える影響です。日本銀行が発表している企業物価指数を見てみましょう。

上図を見てみると、円ベースでの輸入物価指数は足元では前年同月比で30%以上も上昇していますが、最終財の値上がり率は輸入品も国内品もそれほどではないことが分かるでしょう。このデータから何を読み取れるかというと、日本では長らく消費者や企業がデフレや低インフレに慣れてしまったため、少しでも価格転嫁をして値上げすると、その瞬間に買ってもらえなくなってしまう恐怖感があるのです。それゆえに、企業は利益を圧縮して最終価格になるべく転嫁しないようにしています。

背景を知れば、先ほど見た日本の消費者物価指数が他国に比べて低いままである理由もわかるかと思います。

いずれは自分に返ってくる

このような話をすると、企業努力で最終価格が抑えられているのだから、消費者からすれば「安くモノが買える」のでデフレや低インフレはいいじゃないか、という意見が出てくることが多いのですが、経済はつながっているため、必ずしもそうとは言えません。多くの企業はボランティア団体ではなく、利益を出さなくてはいけません。売価を上げられないのであれば、コストを削減するしかありません。

正規雇用を減らして非正規雇用を増やしたり、賃上げを抑えたりボーナスを出さなくなるかもしれません。従業員は仕事を終えれば家計、つまり消費者になるので、雇用環境が不安定になったり、手取りの給料が下がれば消費をしなくなります。すると、売上高は落ちてしまうので、企業は更にコスト削減に走らざるを得ないわけです。
 
そう考えると、デフレスパイラルに陥ってしまうことの危険性が分かるでしょう。投資をしている人は金融政策を気にすることも多いと思いますが、インフレ懸念が燻っているから現在の緩和的な金融政策をやめて、引き締めるべきだと思うかもしれません。しかし、必ずしも経済成長に伴う需要増からのみインフレが起きているわけではないことに注意しましょう。消費者物価指数という数字だけを見て行き過ぎた引き締め政策をとれば景気は腰折れして急減速します。これからは米国をはじめとする先進各国の物価に注視するとともに、中銀総裁や財務長官などの要人発言にも注目しましょう。

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