はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

銀行口座への振込みで、子供達に毎年110万円を贈与したいと思いますが、税務署に届け出る必要はありますか。贈与税が発生しない金額であれば、特に申告書を提出する必要はないという理解でよろしいでしょうか。
(40代後半 既婚・子供2人 男性)


野瀬: 「年間110万円までなら贈与税はかからない」というのは有名な話なので、お子さんに毎年110万円ずつ送金する方は多いのですが、落とし穴もありますので、ここで一度この『110万円ルール』について整理しておきましょう。

贈与税110万円ルールの基本

(1)110万円以下or110万円未満?

まずは単純なことですが、ここは「110万円以下」が正解です。110万円以下であれば贈与税はかかりません。

(2)「1年」の定義

ここでいう1年は暦年、つまり1月~12月です。

(3)110万円超が「約束されていない」こと

(1)と(2)の条件を満たせればそれでOKなのでしょうか? 原則はそうですが、たとえば1,100万円のお金を毎年110万円ずつ10年に分けてお子さんに渡した場合は、なぜか贈与税が課せられる可能性があります。

それはこの行為が「毎年110万円を渡した」ではなく、「トータル1,100万円を10回に分割して渡した」と解釈されてしまうからです。つまり、110万円を超える金額を渡すことが最初から決まっていてはいけないのです。

ですから、贈与税が課せられないようにするためには、ちょっと言いにくい話ですが(笑)、質問者の方のように「毎年計画的に110万円ずつ」と決めるのではなく、「適当にお金を渡していたら、偶然どれも110万円以下だった」というかたちにする必要があるわけです。

これらを踏まえて、実務的には「計画的」とみなされないように、ある年は90万円、2年目は100万円、3年目は120万円、4年目は105万円というふうにバラバラの金額でお金を渡すとよいでしょう。

あれ?……120万円だと贈与税のラインの110万円を超えているじゃないかと思ったかもしれませんが、120万円の場合かかってくる贈与税は以下になります。

(120万円-110万円)×10%=1万円

たった1万円の贈与税を「あえて」申告することにより、「私の場合は『110万のラインを意識した贈与税を逃れ』ではないですよ」という証拠をあえて残すという方も実務的にはいます。贈与税における「肉を切らせて骨を断つ作戦」ともいいましょうか(笑)。

贈与は親子間であっても書面を交わして

正直、申告自体は難しくありません。申告書の形式も非常にシンプルです。贈与税の申告書等の様式一覧の番号1が該当します。たった1枚ですので、自分でも十分作成できると思います。

わからなければ、税務署に行って相談するとよいでしょう。税務署の方は納税者の方には非常に親切ですし、申告書を作るという行為は自分から積極的に納税しようとする行為ですので、丁寧に書き方を教えてくれると思います。また質問者の方の場合「銀行振込で」とおっしゃっているので、贈与財産はすべて現金だと思います。申告書に「現金」と書く、一番シンプルな形になると思います。

申告の期限は確定申告と似ています。去年の1月~12月の贈与について、2月1日~3月15日までの間に申告するのです。遅延すると加算税がかかりますのでご注意ください。

質問者の方のご要望が「贈与税は1円たりとも払いたくない」というのであれば、110万円を超えないように、でも金額はばらばらで、まるで思いつきのように渡していくのがよいでしょう。そうすれば、そもそも税務署に書類を出す必要はありません。

また上記のような「肉を切らせて骨を断つ作戦」をとる場合は、上記申告書を作成しておく必要があります。

最後に1点、この申告書や銀行振込があれば贈与の証拠になると思いがちですが、念のため贈与に関しては、そのたびに「贈与契約書」を交わしておいたほうがよいでしょう。親子間であっても「誰から誰へ」「日付」「金額」を記載した書面を交わすことで、後で税務署から照会があったとしても、きっちり反論できる材料になるはずです。

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