はじめに

最近では、美味しくパンを焼き上げてくれるトースターが人気ですね。トースターにおまかせもよいですが、焼き網で1枚ずつ焼き上げるトーストは格別の美味しさですよ。じっと、パンの焼き上がりを待って、裏返して。

『金網つじ』の焼き網でパンを焼き上げているひとときは、忙しない毎日のなかで、ちょっとだけゆったりとした時間が流れるような、そんな心地よさを感じます。


脇役の品格、『金網つじ』の想い

京料理を支える道具として、京都の料理人に長らく愛用されてきた『金網つじ』の金網細工。『金網つじ』の調理道具は、それ自体を見ても大変美しく、主役になりうる存在感を放ちます。

しかし、『金網つじ』の代表 辻賢一さんは、あくまで「脇役としての品格」というものづくりにこだわります。

料理や器、使う人を引き立てる、“脇役”として。手編みの金網細工にしか出せない味わいや柔らかさ、そして使いやすさのある調理器具が、職人の熟練した技術により生み出されます。

プロダクトとしての美しさだけでなく、“道具”として使うときの心地よさを追求したものづくり。『金網つじ』の金網細工は、京料理とともに発展してきた、美しい脇役の道具です。

職人が魅せる、手仕事の妙

すべて手仕事で製作される、『金網つじ』の金網の道具。『金網つじ』の金網仕事は、最初から最後まで手編みで仕上げるもの、機械で作られた金網を手で曲げて加工するもの、うらごし器や蒸篭(せいろ)など京料理にかかせない曲げ輪の3種類です。

手編みの金網細工に必要な道具は、釘を打ち付けた木の台のみ。釘に合わせて、手で金網を編み上げていきます。左右の手の力加減や均等な大きさの網目に仕上げるなど、金網職人が一人前として認められるには、40年かかるといわれているそう。

熟練した職人の、確かな技術で作られる『金網つじ』の金網細工。手編みならではの美しさが際立つ、「菊出し」という中心から外側に向かって花が咲くように編まれた金網。職人技の光る均一な大きさに編み込まれた、細やかな「亀甲」模様の金網。『金網つじ』の金網細工は、金属が持つ自然な光沢と相まって、つい見入ってしまうような、美しい佇まいが魅力です。

様々なライフスタイルに寄り添う道具へ

『金網つじ』の金網細工は、京料理を支える脇役の道具として長らく愛されてきました。古くからの伝統とさまざまな経験を生かし、「現代の生活に溶け込む商品づくり」をコンセプトに、新しい観点で新商品が生み出されています。

今回は『金網つじ』の中でも、私お気に入りの金網道具をご紹介します。

セラミック付焼き網

焼き上げたパンをひと口かじると、つい「美味しい」と声がもれてしまうくらい。これでパンを焼いたら美味しさ格段増し! と個人的に思う、『金網つじ』の焼き網。

『金網つじ』のセラミック付焼き網で焼き上げたパンは、表面はカリっ、中はふんわりとした美味しい食感です。焼き上がると、亀甲模様の網目がそのままパンの焼き目になり、見た目にもそそられます。

パンのテレビCMで、この焼き網を使ってトーストが作られていたのを、美味しそうだなと見惚れた方もいるのではないでしょうか。かくいう私もそのひとり。

ただただ、じっとパンの焼き上がりを待って、裏返して。焼き網でパンを焼く時間は、忙しない日常のなかでの、ゆるやかな隙間のような時間です。たった1、2分ぼーっと、パンを焼くことだけをやる、というのもなかなかリラックスできますよ。

この焼き網は、ステンレスを手編みで亀甲模様に仕上げた、丈夫で長く愛用できる調理器具です。職人の手仕事によるため、1日に10枚ほどしか作ることができないそう。

シンプルで無駄のない佇まいや、ステンレスながら無骨すぎない雰囲気が、キッチンに自然と馴染みます。まさに、普段の生活に馴染む、日用品として活躍する伝統工芸品ですね。

伝統的な道具を大切に育てていく

銅やステンレスなどの金属で作られながら、どこか優しく丸みのある佇まいの『金網つじ』の道具。職人がひと編みひと編み作り出す、手編みの金網細工は、凛と美しい佇まいでありながらも、使う人の心地よさを考えられた日常の道具です。

あくまで「脇役」として、料理や暮らしをよりよくするために、寄り添い続ける『金網つじ』の金網細工。『金網つじ』は、伝統的な手編みの製法を守りつつ、気鋭のデザイナーとのコラボレーションや、海外でのワークショップを催すなど、新しいことに臆せず挑み続けています。

日本中にある、後継者不足や需要の減少で、惜しくも廃れていってしまう、さまざまな伝統工芸。そんななか『金網つじ』のような気概溢れる職人たちの熱意を、道具を実際に使ってみることで感じることができます。

私たちにできることは、ただひとつ。たくさん使うこと、ですね。たくさん使って、日本にある伝統工芸品のよさを知ること。“少しでも応援の気持ちが伝われば”と、今日も今日とて、パンを焼く。

(この記事はケノコトからの転載です)

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