はじめに

デリバティブにはどのようなものがあるか

デリバティブは一つの体系的な世界、といっても、実際には様々な取引形態があり、また様々な原資産を取り扱うものがあります。それをいくつかの切り口で分類してみましょう。

まず取引の種類という点からみていくと、デリバティブは大きく分けて

先日付取引(フォワード、forwards、先物、futures)
先の日付(1か月後とか10年後とか)に取引をすることを約束する取引
スワップ(swaps)
2つの異なるキャッシュフロー(一連のお金の流れ)を交換する取引
オプション(options)
ある商品を売買する権利、あるいはある取引を行う権利の売買
に分かれます。

少し気をつけていただきたいのは、こうした分類はあくまでも便宜上のものであって、実際にはこれらが組み合わさったような取引もよく行われているという点です。たとえば、スワップ取引の中にフォワードやオプションが含まれることは実際に多くあります。

次に、取引が行われる“場”という点からみると、デリバティブは上場デリバティブとOTCデリバティブ(店頭デリバティブ)に分けることができます。上場デリバティブは、一般の株の売買と同じように、取引所に上場され、一定の条件を満たせば誰でもそこで自由に売買できるタイプのものです。

これに対して、OTCデリバティブは、取引所を介さずに相対で行う取引を指します。OTCはover the counter、すなわちカウンター越しという意味で、日本語の店頭取引も同様ですが、金融機関の店頭でカウンター越しに行う取引というのが語源です。ただし今ではもっと意味が広がっていて、取引所を介さずに行う取引はすべてOTC取引となります。

なお、この上場取引(取引所取引)とOTC取引の区別はデリバティブに限ったものではありません。たとえば株の取引は上場取引が主流ですが、一部ではOTCでも取引されています。逆に債券の場合は、上場取引もあるにはあるのですが、主流はOTC取引です。デリバティブの場合は、上場デリバティブもOTCデリバティブもどちらも非常に活発に取引されています。

デリバティブの分類として最後に取り上げるのは、原資産による分類です。デリバティブの原資産は、理屈の上では基本的に制約がありません。

ただし、一般によく取引されるものは、金利と為替を原資産とするものです。このうち、とくに取引量の多いのが金利を原資産とするデリバティブです。本書でも頻繁に登場する金利スワップ(Interest Rate Swaps)はその代表格です。

金利はお金の貸し借りに伴って発生するものですから、これをお金の貸し借りのデリバティブと捉えることも可能です。債券も金利商品の一種なので、債券を原資産としたものも基本的にはこの金利デリバティブに含まれます。

次に取引量の多いのが、通貨(為替)を原資産とするものです。通貨スワップ(Cross Currency Swaps)やフォワード為替、通貨オプションなどが該当します。

それ以外にも、株式や株価指数を原資産とするエクイティ・デリバティブ、原油などのエネルギー商品や金などの貴金属、あるいは農産物といった非金融商品(コモディティー)を原資産とするコモディティー・デリバティブといったものもあります。

これらの原資産は基本的に市場で取引される市場性商品ですが、そうでないものも原資産になります。非市場性商品としての原資産の代表格は、国や企業の信用力です。信用力とは、借金などの債務の返済能力のことです。この信用力を原資産とするものが、クレジット・デリバティブです。
クレジット・デリバティブは、信用保証という既存の金融取引とかぶる部分もありますが、これがなぜデリバティブとして取引されるかというと、もちろんそうすることによるメリットが大きいからです。

デリバティブは市場取引なので、一定の要件さえ満たせば誰でも取引をすることができます。ですから、クレジット・デリバティブを使った信用リスクの管理(リスクテイクおよびリスクヘッジ)も、機動的かつ柔軟に行うことができます。
それに加えて、あくまでも大勢の取引参加者がいることが前提ですが、市場で活発に取引されることで、対象となる国や企業の信用力に関する市場参加者のリアルタイムな評価がその相場に反映されていくことになります。
つまり、クレジット・デリバティブの相場動向から、国や企業の信用力に関するリアルタイムの情報が得られることになります。

そして、この情報を資産評価やリスク管理に活かすことも可能です。他にも、天候を原資産とするウエザー・デリバティブ、地震などの自然災害を原資産とする災害デリバティブなど、自然現象を原資産にしたものもあります。

これらは、やはり既存の金融取引である保険とかぶる部分の多いものですが、やはりデリバティブにすることで、取引の簡便性や機動力を確保することができます。ただし、この分類の取引は、取引量としてはそれほど多くありません。

以上、3つの切り口による分類をまとめると以下のようになります。


田渕直也(たぶち・なおや)

1963年生まれ。1985年一橋大学経済学部卒業後、日本長期信用銀行に入行。海外証券子会社であるLTCB International Ltdを経て、金融市場営業部および金融開発部次長。2000年にUFJパートナーズ投信(現・三菱UFJ投信)に移籍した後、不動産ファンド運用会社社長、生命保険会社執行役員を歴任。現在はミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役。シグマインベストメントスクール学長。『ランダムウォークを超えて勝つための株式投資の思考法と戦略』『この1冊ですべてわかる 新版 金融の基本』『図解でわかる ランダムウォーク&行動ファイナンス理論のすべて』(日本実業出版社)、『ファイナンス理論全史』(ダイヤモンド社)など著書多数。

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(この記事は日本実業出版社からの転載です)

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