はじめに

イーサリアムの大型アップデート「マージ(Merge)」が近づいています。マージとは、イーサリアムが2015年に稼働し始めてから段階的に進めてきたプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)への検証システムの移行を指しています。これによりイーサリアムは取引処理性能が向上すると期待されています。

つい先月にはイーサリアム財団のメンバーがマージを行う具体的な日程として9月19日を提案し、マージがいよいよ完了するとの期待からイーサリアムの価格も大きく上昇しました。イーサリアムはいくつかのテストネットを有していますが、テストネット上でのマージも最終段階に入っています。

来月にかけてはイーサリアムの本番環境でのマージが期待されますが、イーサリアム財団はマージ後にも様々な方法でスケーラブルなブロックチェーンへと発展していく絵を描いています。イーサリアムが目指すものとは一体何なのか、イーサリアムの基本に立ち返って解説します。


イーサリアムとイーサリアム2.0

イーサリアムはヴィタリック・ブテリンというロシアの若き天才が考案したブロックチェーンです。通貨として考案されたビットコインと違い、イーサリアムは多様な分散型アプリ(Dapps)を開発するための基盤として機能します。最大の特徴はスマートコントラクトというプログラムをブロックチェーン上で実行できることです。これによりあらゆる取引を検証可能な形で自動化することができます。

私たちが取引所で目にするイーサ(ティッカー:ETH)は、イーサリアム上で取引を処理する時や、スマートコントラクトを実行する時に手数料として使われます。イーサリアム上で多くのDappsが作られて取引が盛んになるほどイーサの需要も大きくなります。2020年から2021年にかけては分散型金融(DeFi)が人気となり、その基盤となるイーサリアムが大きく成長しました。

しかし、イーサリアムはスムーズな金融取引を実現するほどの十分な取引処理性能を備えていないため、取引の数が増えると手数料の高騰や取引の遅延が起きてしまいます。ひどい時には一度の取引だけで数千円もの手数料がかかってしまうことがあり、Dappsの利便性を確保するためにはスケーラビリティ問題を解決することが必要不可欠となっています。
 
イーサリアムがこの問題を解決するためのコアアップデートが冒頭に述べたマージです。イーサリアム財団は初期からPoSへの移行を前提に開発を進めてきましたが、約7年を経てようやくそれが実現しようとしています。イーサリアム2.0とは簡単にいえばPoS移行後のイーサリアムを指しています。

イーサリアムとイーサリアムキラー

最近ではイーサリアムと同じくDappsの開発プラットフォームとして機能するブロックチェーンが増えています。バイナンスが主導するBNBチェーンや、エフ・ティ・エックスとの関係が深いソラナなどはその筆頭です。これらはイーサリアムの抱えるスケーラビリティ問題を解決しようと生まれてきた新興のブロックチェーンで、イーサリアムキラーとも呼ばれます。

これまではイーサリアム上で作られるDappsがほとんどでした。しかし、DeFiブームのなかでイーサリアムの手数料の高騰が大きな問題となり、一部のユーザーがより安価に取引できるイーサリアムキラー上のDappsへと移っています。もともとイーサリアム上で人気を集めていたDappsもユーザーの流出を防ごうと競合のブロックチェーンへの対応を急いでいます。

このように話すとイーサリアムが立場を奪われてしまうのかという懸念が出てきますが、イーサリアムは今でも時価総額ランキングでビットコインに次ぐ2位を堅持しています。それはイーサリアムがマージの他にもスケーラビリティを改善するための様々な開発を進めているからです。

イーサリアムはシャーディングという取引の並列処理の仕組みも導入する予定です。ヴィタリック氏はシャーディングの導入を含めて、ここからさらに4段階のアップデートを構想しており、最終的には秒間で10万件の取引を処理できるようになると述べています。

また、イーサリアムでは本体の機能を拡張するだけではなく、レイヤー2と呼ばれるような本体以外のところで取引を高速処理するような仕組みによってもスケーラビリティ問題を解決しようとしています。

このようにイーサリアムはスケーラビリティ問題を解決し、分散型のスケーラブルな汎用コンピューティングプラットフォームになることを目指しています。イーサリアムがイーサリアムキラーにとって代わられる可能性はゼロではありませんが、イーサリアム2.0に向けたコミュニティ内での開発が途絶えない限りは、おそらくイーサリアムの基盤レイヤーとしての立場は維持されるでしょう。

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