はじめに
日頃お世話になっている人に感謝の気持ちを伝える恒例行事、お歳暮の季節が今年もやってきました。ただ、この恒例行事も年々下火になり、市場規模は2018年までの5年間で4.4%減少する見込みです。
こうした状況を変えようと、百貨店や食品会社はさまざまな戦略をめぐらせています。そんな中、お歳暮商戦に“ある2つのトレンド”が生まれているようです。
“味集中カウンター”がお歳暮に!?
全国に73店舗を展開する、とんこつラーメン専門店「一蘭」。2013年からお歳暮商品の販売を始めていますが、今年は初めて“ある仕掛け”を試みました。一蘭ファンにはおなじみの“味集中カウンター”をお歳暮商品に組み込んだのです。
お歳暮の化粧箱を組み立てると「味集中カウンター」が登場
「作り手の雰囲気を一切排除し、お客様に一杯のラーメンのみと向き合い、周りを一切気にせず召し上がっていただきたい」という吉冨学社長の思いから生まれた、味集中カウンター。同社オリジナルのオーダー用紙システムとともに「味集中システム」の1つとして特許を取得しています。
お歳暮として手元に届く味集中カウンターは、「一蘭ラーメンちぢれ麺」など4食分が入った一蘭のお歳暮ギフト「極上セット」(税込3,500円)になっています。中身を取り出し、化粧箱を組み立てると、あのカウンターが再現できます。
同社広報の小池桃子さんは「美味しく召し上がっていただくだけではなく、ちょっとした楽しさを感じていただければ」と、今年からこの仕掛けを取り入れたと話します。
「実際に使って一蘭の雰囲気を味わいたい」「家に飾りたい」といった声が届き、とても好評だそう。お歳暮の贈答品として用意しているものの、約6割が自分用に購入し、リピーターも多いと小池さんは語ります。
右肩下がりの市場、需要が増える「自分用」
一蘭に限らず、自分用にお歳暮を購入する人が増えているようです。
右肩下がりが続くお歳暮市場。矢野経済研究所の調べによると、2014年には1兆円あった市場規模は、2018年には9,559億円まで減る見通しです。それを補うため、百貨店各社が送付するお歳暮カタログには、近年、贈答品用とは別に自家用カタログを同封するなどの取り組みを進めています。
「自家用カタログの売上推移は目に見えて上昇しています」と話すのは、そごう西武の商品・企画部マーチャンダイザーの稲澤怜央さん。自家用カタログによる売り上げは、お歳暮全体の売り上げに対して5%のシェアを占めるといいます。
今年のお中元では前年比101%の売り上げを記録した同社。「慣例ギフトの顧客は確実に減少傾向にあります。それでも当社が売り上げを保てているということは、1人当たりの購入点数が増える以外に考えられないと思いますので、自家用に購入される方が増えているのではないでしょうか」と稲澤さんは話します。
お歳暮用の贈答品が自家用に購入されているかどうかの数字は取れていないとしながらも、試食販売している現場では、お客さんから『自分用に1つほしい』という声をかけられることが多いといいます。
「お試し」で売上増と新規顧客の獲得
贈答品の購入の決め手にもなり、自分用の購入の後押しにもなるのが、イートインや試食といった「お試し」です。「最近のお客様は慎重。まずは食べてから贈り物を決めたいと言われる方が多いです」と稲澤さん。
テーマ食材の大豆を使用したタマフクラ甘納豆。西武池袋本店のイートインスペースで提供。
西武池袋本店のお歳暮売り場では、今年のテーマ食材「大豆」を使用した甘納豆やプリンなどが味わえるイートインスペースを設置。セット売りされている贈答品の単品購入も可能です。全店で販売員を配置して、試食も積極的に展開します。
「試食を行った商品や単品で販売した商品は、売り上げが伸びる傾向にあります」と稲澤さん。イートインの設置や試食といった「お試し」は、売り上げの拡大だけではなく、新しい顧客の取り込みにもつながっているといいます。
オチマーケティングオフィスを運営する流通コンサルタントの生地(おち)雅之さんは、イートインや試食を通して購入者の満足感を高めることが自家用の購入を後押ししていると見ます。そのうえで、今後は「売り上げの縮小をどう防ぐかではなく、増やすための施策を考えていかなければいけない」と指摘します。
恒例行事のお歳暮を盛り上げていくため、そごう西武の稲澤さんは“ある商戦”と同じ展開を目指したいと話します。「お歳暮本来の目的はもちろんそのままに、友達にあげたり、自分へのご褒美に購入したりするバレンタイン商戦のように浸透させていきたいです」。
大切な人への贈り物をカタログから選ぶより、試食をしながら自分へのご褒美も選べるような楽しさがあるお歳暮売り場になることが、市場回復の一因になるのかもしれません。
(文:編集部 土屋舞)