はじめに
給料の上昇が必須条件
先ほど、「物価が下がると売り上げが減り、給料が下がる」と述べました。現在は「物価が上がって売り上げが増え、給料が上がる」という流れの真っただ中。コロナ後、企業の売り上げは増えつつありますが、まだ給料が“明確に”上がってはいません(額面上の給料はジリジリ上昇しているが、物価の上昇分を差し引いた「実質賃金」は、2023年10月までで19か月連続でマイナス)。
全産業の売上高、営業利益、経常利益の推移
画像:内閣府「2022年の企業収益の振り返りと2023年度の見通し」
日銀は、景気が過熱したり、物価の上昇が激しくなったりした時は、世の中に出回るお金の量を、蛇口を締める(=金利を上げる)ことで収束を図ります。反対に、景気の悪化や物価下落に対しては蛇口を開ける(=金利を下げる)ことで改善を図るわけです。
これまで日銀がゼロ金利政策を取っていたのは、「物価の安定(デフレからの脱却と安定したインフレ状態への突入)→給料の増加」と、それに伴う景気の改善が目的です。現状は、「人々の給料が上昇」「景気が改善」というシナリオの途中。このタイミングで下手に金利を上げ、世の中のお金の流れを止めてしまうと、シナリオ半ばでデフレの時代に逆戻り……となりかねません。しかし、このままゼロ金利を続けていると、物価の上昇が止まらなくなる可能性もあります。現在は、蛇口の開け閉めをするのに非常に難しいタイミングということです。
ゼロ金利解除は最速でも2024年4月?
2023年4月の就任から現在に至るまで、植田総裁は「ゼロ金利解除を含め、金融政策の転換を決断できる段階にない」ことや、「物価や賃金の上昇が継続的なものになるか判断するのはまだ早計」などと主張してきました。そういう状況の中、12月に植田総裁の口から出てきたのが、冒頭で紹介した「チャレンジング」という言葉。これによって、市場では「日銀は2024年、何らかの具体的な動きに出る」との観測が浮上し、株式市場や為替市場が大きく動きました。
とはいえ、日本の金融政策は植田総裁1人の意見で決まるわけではありません。金融政策を決める「金融政策決定会合」は年8回開かれ、メンバーは総裁1人と副総裁2人、6人の審議委員、計9人で構成されます。現在は、基本的にほぼメンバー全員が「ゼロ金利解除のタイミングは整いつつある」という見方である一方、「そのタイミングを決めるのは早い」という考えも共通しているようです。
植田総裁は2023年12月26日のNHKのインタビューで、金融政策の転換について「来年にゼロ金利解除の可能性はゼロではない」と述べるにとどまりました。また、「デフレに逆戻りするリスクは低い。(ゼロ金利解除に向けて)3月の春闘の状況を確認したい」とも述べています。この発言からわかることは、日銀がゼロ金利解除に動くのは、最速でも4月以降が濃厚ということ。これまで、金融政策転換に向けて慎重さを見せてきたことを考えると、2024年後半、あるいはそれ以降となる可能性もあるでしょう。
数か月後になるか1年以上先になるのか、正確にはわかりません。エコノミストなど金融のプロたちの間でも、意見が割れているようです。ただ、たしかなのは私たちがゼロ金利解除に向けて準備をしておく必要があることです。