はじめに

“住みたい街”に関するランキングは世の中にあふれているけれど、“住みやすい街”のランキングとなると、あまり見かけた記憶がない。あったとしても、実感とは程遠い内容でガッカリした。そう感じている方は少なくないのではないでしょうか。

こうした現状を受け、住宅ローン専門金融機関のアルヒが今年から発表を始めたのが「本当に住みやすい街大賞」です。ランキング入りした街は、従来の「住みたい街ランキング」でお馴染みの、いわゆる“憧れの街”とは異なる顔ぶればかり。

ファミリー層にとって、本当に住みやすい街はどんな街なのでしょうか。掘り下げて調べてみると、住宅購入者が自宅に求める必須条件が変化している状況が浮かんできました。


意外な街が出そろったトップ10

12月6日に開催された「本当に住みやすい街大賞 2017」の発表会。タレントの小倉優子さん(上写真、右は杉並区の担当者)をゲストに迎え、トップ10の街が紹介されました。

このランキングは、アルヒが持つ数十万件の住宅ローンのデータから、長期固定型住宅ローン「フラット35」を利用した人が多い上位20位までのエリアを1都3県から抽出。その中から「住環境」「交通利便」「教育環境」「コストパフォーマンス」「街としての発展性」の5つの選考基準を基に、有識者が本当に住みやすい街を選定しました。

順位地名沿線総合評価
1南阿佐ヶ谷東京メトロ丸の内線4.58
2勝どき都営大江戸線4.18
3赤羽JR京浜東北線など4.10
4三郷中央つくばエクスプレス4.08
5戸塚JR東海道本線など4.03
6南千住東京メトロ千代田線など4.02
7大泉学園西武池袋線3.82
8千葉ニュータウン北総鉄道北総線など3.77
9小岩JR総武線3.76
10浮間船渡JR埼京線3.70

1位の「南阿佐ヶ谷」は、閑静な住宅街でありながら、東京メトロ丸の内線とJR中央線が利用でき、住みやすさと交通利便性の両方を兼ね備えている点が評価されました。「勝どき」は、銀座まで徒歩圏内で、環状2号線の整備が今後進むとますます交通利便性が高まるとして、2位に選出されました。

都心への交通利便性が良い割に物件価格に割安感があるとしてランクインしたのが、「赤羽」「三郷中央」「戸塚」「浮間船渡」です。

中でも4位の「三郷中央」があるつくばエクスプレス沿線は、首都圏でも割安なマンションがそろう場所だといいます。「線路に踏切がないため、遅延がほとんど起こらないのも、住みやすさのポイントです」(選定委員で不動産コンサルタントの岡本郁雄さん)。

東京の下町風情を残しながら、開発が進み、さらなる発展性が期待されているとして選ばれたのが、9位の「小岩」です。同様に「南千住」「戸塚」「勝どき」も、商業施設などの開発による今後の発展性が評価されました。

選定委員長を務めた住宅評論家の櫻井幸雄さんは、従来のランキングで常連だった「吉祥寺」「自由が丘」「恵比寿」は、どこも高嶺の花で値段が高く、新築物件の供給も少ないとしたうえで、「今回の『本当に住みやすい街』は、自分も住めるかもしれないという可能性を秘めたランキングになっています」と総括しました。

都内に住める“最後の楽園”を探して

これまでの「住みたい街ランキング」では、あまり目にすることのなかった「赤羽」「戸塚」「南千住」「小岩」「浮間船渡」が入賞した今回のランキング。

不動産調査会社・東京カンテイの井出武・上席主任研究員は「今まで過小評価され、比較的物件価格の安かったエリアが近年、人気が高まり評価されてきていることを反映しているのではないでしょうか」と分析します。

これまで住む場所として注目されてこなかったエリアでも、開発が進んだことによって、実際に住んでみると意外に利便性が高く、“住めば都”を具現化できる要素が出てきているといいます。

そうした場所が選ばれるのは、見栄や憧れを取り除き、「賃料や物件価格は高いより安いほうがいい」「通勤時間は長いより短いほうがいい」と、自分の物差しで判断できる若者が増えてきたことが背景にあります。

「東京スカイツリーの建設によって下町ブームが起き、“古い東京”の新しさが脚光を浴びるようになりました。それにより、住居を選ぶ側の価値観も揺り動かされたのではないでしょうか」と、井出さんは考察します。

過小評価されてきた街が選ばれるようになったのは、都内の不動産の価格が普通の会社員では手が出せないほど高騰している影響もあります。2013年以降、日本銀行の金融緩和政策に伴う不動産市場への資金流入や東京五輪需要を受けた建築コスト上昇などの影響で、首都圏全体のマンション価格が急上昇しました。

そのため、「東京の中で一般人の手が届くエリアはどこが残っているのか。“最後の楽園探し”になっているという面もあります」(井出さん)。

10年後の資産価値よりも「住みやすさ」

では、首都圏の“最後の楽園”として浮上した「本当に住みやすい街」は、10年後も資産価値を維持することが期待できる場所なのでしょうか。

井出さんは「資産価値にこだわらないほうがいいエリア」だと、くぎを刺します。その理由は、どんなに住みやすい街でも、3A地区(麻布・青山・赤坂)のように資産価値が安定し、将来上昇が期待できるような場所だと言いきれないためです。

ただし、その分「安く不動産を所有できる」「生活コストが安い」「交通利便性が良い」という特長があるため、生活するうえで財布に優しく、バランスの取れた住みやすいエリアだと井出さんは評します。

今後、都心の一等地しか維持できそうにない不動産の資産価値。住宅購入者が自宅に求めるものとして、資産価値よりも、交通の利便性や財布に優しいといった“住みやすさ”が重要視される時代になってきているようです。

(文:編集部 土屋舞)