はじめに

ミカンやデコポンなど柑橘類がおいしい季節となりました。スーパーへ足を運ぶと、国内外を問わず、さまざまな産地の柑橘類が商品棚に並んでいます。特に大型店へ行くと、地方では人気があるものの、全国的にはまだ知られていないフルーツが売られていたりします。

今回の記事で取り上げる「晩白柚(ばんぺいゆ)」も、その中の1つ。国内生産量のほとんどを熊本県八代市が占めている、熊本を代表するローカルフルーツです。2015年には「世界一大きい柑橘類」としてギネス認定を受けました。

この晩白柚に熱い視線を注いでいるのが、流通大手のイオンです。晩白柚の何がイオンを引き付け、どんな販売戦略を進めているのでしょうか。


ゼリーやプリンまで販売

イオンが自社の実店舗やオンライン店舗で晩白柚の取り扱いを始めたのは2013年のこと。果実そのものはもちろん、これまでに晩白柚の果汁とアロエの食感が味わえるゼリーや、生クリームのコクと晩白柚のさわやかな果汁が同時に楽しめるクリーミープリンも販売してきました。

展開は国内だけにとどまりません。2015年からは毎年、旧正月の時期に、香港にあるイオンの全店舗で晩白柚フェアを開催。昨年は、贈答用の桐箱にいれた晩白柚が完売するほどの売れ行きを示したといいます。

こうした一連の取り組みは、SNSなどでも取り上げられ、一部のフルーツ好きの間で話題となりました。イオンがここまで力を注ぐ晩白柚とは、そもそもどんなフルーツなのでしょうか。

捨てるところがないフルーツ

晩白柚の最大の特徴は、冒頭でも触れたように、その大きさです。2015年にギネス認定を受けたものは4,859グラムもあります。一般的なミカンは1つ100~200グラム前後ですので、晩白柚はその25~50倍近くの重さになります。

特徴は大きさだけではありません。晩白柚は分厚い皮とふかふかのワタに包まれていて、常温で2週間から1ヵ月の長期保存ができます。また、インテリアのように部屋に置くだけで、鼻を近づけるまでもなく、周囲に優しい柑橘の香りが漂うのを楽しむことができます。

晩白柚は捨てるところがないフルーツとされ、中身の果肉はもちろん、外皮は砂糖漬けやマーマレードにしておいしく食べられます。熊本の一部の旅館では、晩白柚を温泉に浮かべて宿泊客にゆっくり湯に浸かりながら晩白柚の香りを楽しんでもらっています。本当にムダな部分がない果物です。

気になる味は、柑橘果物の中でも意外に果汁が少なめで、ジューシーさはそれほどでもありません。しかし、果汁が少ないがゆえのおいしさがあります。果肉をかじると「サクッ」と音が出るような、小気味よい歯ざわりがたまらない食感です。

この特徴的な食感と味が他の果物にはない良さでもあり、やみつきになってしまう方もいるほどです。糖度は12度前後と、さわやかでさっぱりした程よい甘さ。酸味と甘味の絶妙なバランスを楽しめ、甘酸っぱい良い香りが漂います。

サプライズギフトとしても人気

このように、一般的なフルーツとはかなり違った特徴を持つ晩白柚。実は、日本原産のフルーツではありません。1930年に台湾から持ち帰った晩白柚の株が熊本県八代市に根付いて、改良が施された外来種です。晩白柚は現在、八代市で国内生産量の97%を占めており、地元の特産品となっています。

私の運営しているフルーツギフトショップでも、最近はマスクメロンではなく、あえて晩白柚を大切な方への贈り物に使われるお客さまがおられます。受け取った方は、箱を開けると中に大きな晩白柚が1玉入っているので、かなりのサプライズです。

また、ミカンやデコポンといった柑橘果物は何玉も贈るのが普通であるのに対して、晩白柚は大きくて可食部が多いために、1玉を贈るだけでも家族で楽しめ、喜ばれる贈り物になります。

イオンが晩白柚に熱い視線を送る理由

それでは、このローカルフルーツに対して、イオンが熱い視線を注いでいる理由は何なのでしょうか。

イオングループでは現在、地域の生産者と協力して、地元の特産品のブランド化を進めていく「フードアルチザン(食の匠)活動」を展開しています。これまで熊本県で盛り上がっていた晩白柚についても、本州や四国のイオンの一部店舗で販売しているのです。

見慣れない晩白柚の実物に触れた買い物客の反応は上々とのこと。「まずその大きさに驚かれ、次に香り高いのとスッキリとした甘さに驚かれています。販売した店舗では大変な好評をいただいております」(イオンリテール広報)。

イオンが取り扱いを始めてから、晩白柚の知名度も徐々に向上。少し古いデータになりますが、農林水産省の「特産果樹生産動態等調査」によると、2010年には865.7トンだった晩白柚の出荷量が2014年には939.2トンまで増加しています。

これまで熊本県の片隅でひっそりと作られてきた晩白柚が、全国区のメジャーフルーツになる日は、そう遠くないかもしれません。

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