はじめに
楽天証券がiDeCo加入者へ向けて、先日発表した商品除外については延期する旨のメールを発信しました。商品除外の発表から一転して詳細は改めてとのご案内に、戸惑いの声が届いております。この状況を整理し、これからとるべき行動を考えていきましょう。
iDeCoラインナップ除外は延期
前回の記事でもご紹介したように、去る5月15日に、楽天証券が同社のiDeCoの商品ラインナップのうち9本の投資信託を除外する旨発表しました。しかし、加入者からの問い合わせが殺到したそうで、発表から数日後には除外について説明するお知らせのページを同社ホームページから削除する事態となりました。
その後、同社のiDeCo加入者に対し、「商品除外については、延期とする」とのメールが送信され、詳細は改めてというのが現在の状態です。
ここまでの流れを見ると、加入者からの問い合わせが殺到したというのは、加入者のみなさんが商品除外の状況をしっかりと受け止め、判断したいとの気持ちの表れではないかと考えます。筆者は、iDeCo加入者のみなさんの意識が高く、証券会社からのお知らせにもご自身で納得した上でアクションを取りたいという姿勢に深く感銘を受けた次第です。
またその後、楽天証券がお客様の声を真摯に受け止め、商品除外の一連のプロセスについて、改めて対応を考える結論を出されたのは、英断であると思います。「お客様へのご説明が充分でなかった」と表明しているところなど、顧客第一であるという同社の姿勢が感じられます。
楽天証券の件については、しばらくは様子を見守る形になるかと思いますが、確定拠出年金における商品除外はとても重要な事柄であるだけに、再度商品除外はどうあるべきなのか、また関係者はどう行動を起こすべきなのかを考えていきたいと思います。
iDeCoの制度
iDeCoは、税制優遇を受けながら老後の資産形成が行える国の制度です。この制度に加入する場合、まず窓口となる金融機関を選びます。この金融機関は運営管理機関と呼ばれ、各種手数料と複数の運用商品を設定しています。特に各運営管理機関が選ぶ運用商品ラインナップの善し悪しは、加入者の資産形成の結果に直結するので、運営管理機関は選定責任を負っています。
厚生労働省は、確定拠出年金制度を広く普及し、国民に老後の資産形成に積極的に取り組んでもらいたいと考え、運営管理機関が選定する運用商品は35本以内と決めました。これはあまりに選択肢が多いと、投資に不慣れな人は選べないだろうとの配慮からです。
もっぱら加入者の利益のために、慎重に運用商品を選定する役目を負う運営管理機関ですが、選定した運用商品が時流に合わなくなることがあります。代表的な例として、投資信託のコストの引き下げです。近年資産運用業高度化を推進する金融庁は、運用会社の透明性や投資信託の手数料の明確化を求めてきました。
結果として、同じ資産クラスに投資をする投資信託、あるいは運用方針が近しい投資信託でも、新しく設定されたものを選んだ方がコストが安く投資できる環境が整ってきたのです。
すると、運営管理機関としては「もっぱら加入者利益のために」運用商品を選定する責任を負っているため、運用商品の変更を試みることになります。しかし運用商品数は35本が上限であるため、すでに上限に達した商品数を持つ運営管理機関は、なにかを除外し、なにかを追加する手続きを踏むことになります。
商品除外は、加入者の利益のために行われるべきことですが、個々の状況によっては必ずしも利益につながらないこともあります。例えばAという投資信託を積立で投資をしていた場合、いきなりその商品がラインナップから除外されるともうその商品を新規で買い付けできなくなるからです。
商品Aの新規買い付けはできなくなりますが、これまでに購入した商品Aは持ち続けることは可能です。しかし、その商品を気に入って投資していた方にとっては、利益とは思えずむしろ不利益変更と捉えてしまうかも知れません。
商品除外は、対象商品を保有している加入者に、除外をしてもよいかの回答を求めることになっています。除外確定には3分の2以上の賛成が必要となりますので、当然ながら運営管理機関は除外に納得していただけるよう充分な情報提供とコミュニケーションをとる必要があります。特段なにもアクションを起こさなければ、自動的に除外に賛成とみなされてしまうため、「知らなかった」とならないような充分な周知が求められます。