はじめに

在職老齢年金制度の見直しで年金額が増える人はどのくらいいる?

ここまでの在職老齢年金制度の見直し内容を見て「在職老齢年金の対象になる人は相当給与が高い人だ」と気づいたのではないでしょうか。厚生年金の金額は人によって異なりますが、それほど高くなりません。給与+年金が62万円を超えるには、給与だけで少なくとも月50万円くらいは必要になるでしょう。

厚生労働省のデータによると、在職老齢年金の基準が62万円になることで、厚生年金を満額受け取れるようになる人は約20万人と試算されています。

老齢厚生年金の支給停止の状況

厚生労働省のウェブサイトより

図は2022年度末時点で、65歳以降の働く年金受給権者について、給与+年金額ごとの人数の割合をグラフに示したものです。なお、2022年度末時点の在職老齢年金の基準額は47万円でした。

やはり、大部分の方は20万円〜30万円となっているので、在職老齢年金の基準には届きません。しかし、給与+年金額が47万円を超えている人もいます。在職老齢年金の見直しによって基準額が62万円になると、約20万人が新たに老齢厚生年金を全額受給できるようになります。また、グラフには示されていませんが、給与+年金額が62万円を超えている人も、減額になる老齢厚生年金の金額が減ることになります。

在職老齢年金の見直しはなぜ行われる?

在職老齢年金の見直しの背景には、老後も働きたいと考える人の意欲をアップさせ、人手不足を解消したいという考えがあります。

厚生労働省の資料によると、2023年時点では、65〜69歳の53.5%が働いている時代です。働き続けたいと考える高齢者は増えています。一方で、内閣府「生活設計と年金に関する世論調査」には、こんな質問が載っています。

Q:厚生年金を受け取りながら会社などで働く場合、一定以上の収入があると、受け取る年金額が減ることになります。あなたが厚生年金を受け取る年齢になったとき、どのように働きたいと思いますか?

これに対する回答の割合は、上図の「②厚生年金を受け取る年齢になったときの働き方」にあります。もっとも多かったのが「年金額が減らないよう時間を調整し会社等で働く」で31.9%、ついで「働かない」が29.0%となっています。つまり、年金が減ってしまうのであれば6割以上の人が働き方を調整する(あるいは、働かなくなる)ことを示しています。これを改善することで、高齢者が働きやすくなり、人手不足にも対応できると考えているのです。

在職老齢年金が一部支給停止になっている人はもちろん、支給停止にならないよう働き控えをしている人にとっても、在職老齢年金の見直しはありがたいことでしょう。

在職老齢年金の見直しによって将来の給付水準は若干下がるものの、厚生労働省によると「在職老齢年金制度の見直しを含め、制度改正全体で見れば、将来の給付水準が上昇します」とのこと。それであれば、在職老齢年金の基準にかかるような人には長く働いていただいたほうがいいということになるでしょう。

在職老齢年金の上限は今後さらに引き上げられるとみられます(実際、今回の制度改正でも「62万円に引き上げ」のほかに「71万円に引き上げ」「支給停止の撤廃」も議論されました)。誰もが年金が減ることを気にせずに活躍できるように、今後も制度改正が望まれます。

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