はじめに
会社員・公務員の方が納める厚生年金保険料は、毎月の給与から天引きされています。2025年6月に成立した「年金制度改正法」には、厚生年金保険料にかかわる「標準報酬月額」の上限の段階的な引き上げが盛り込まれています。これによって厚生年金保険料が増えてしまう人が出てくるといったら、気になる方も多いでしょう。
今回は、今後の標準報酬月額引き上げのポイントを紹介します。
そもそも標準報酬月額とは?
標準報酬月額とは、社会保険料を簡単に計算するための金額のことです。毎月の給与からは、標準報酬月額に基づいて計算された厚生年金保険料が天引きされています。
標準報酬月額は、「標準報酬月額表」という表に毎年4〜6月までの給与(厳密には、残業代や各種手当を含んだ「報酬」)の平均額を、標準報酬月額表の「報酬月額」に当てはめて求めます。標準報酬月額がわかれば、毎月納める保険料もわかるようになっています。
標準報酬月額表
画像:日本年金機構のウェブサイトより
たとえば、4月から6月の給与の平均額が30万円の方の場合、上表より「19等級」に該当し、標準報酬月額は「30万円」とわかります。
厚生年金保険料の料率は2017年(平成29年)9月以降、標準報酬月額の18.3%に固定されています。実際には労使折半といって勤務先と折半になりますので、本人負担分は標準報酬月額の9.15%です。つまり、この方の給与から天引きされる厚生年金保険料は「30万円×9.15%=2万7450円」です。
表の右側には、標準報酬月額ごとの厚生年金保険料の計算後の金額がされています。多少の給与の差があっても、標準報酬月額が同じであれば、天引きされる厚生年金保険料の金額も同じです。
給与に多少の差があるからといって、いちいちそれを厚生年金保険料に反映させていたら給与計算が大変になってしまいますよね。それを防ぐために、このような方法がとられています。
なお、健康保険の保険料も同様のしくみで決まっています。健康保険の標準報酬月額は50等級に分かれているのですが、今回は厚生年金の話ですので割愛します。
賞与にかかる厚生年金保険料は「標準賞与額」をもとに計算されます。標準賞与額は、賞与の1000円未満を切り捨てた金額。これに厚生年金保険料の料率(労使折半後で9.15%)をかけることで、賞与から納める厚生年金保険料がわかります。なお、厚生年金の対象になる賞与は最大150万円・年3回までです。
標準報酬月額の上限が65万円から75万円に
今回の年金制度改正法では、厚生年金保険料の標準報酬月額の上限を現行の65万円から75万円に段階的に引き上げることが盛り込まれました。
標準報酬月額表をみると、現状の標準報酬月額の上限は65万円・32等級となっていることがわかります。65万円・32等級となるのは、報酬月額が63万5000円以上の方ですから、単純にいえば年収762万円以上の人はみな65万円・32等級です。さらに、年収が1000万円でも2000万円でも、納める厚生年金保険料は同じということを意味します。
となると、毎月の給与が上がるほど、給与に占める厚生年金保険料の金額の割合が減ってしまうことになります。
実際の賃金などに対する保険料の割合
画像:厚生労働省の資料より
図では月額賃金が65万円・71万円・75万円の例が比べられています。月額賃金が65万円でも71万円でも75万円でも、納める厚生年金保険料は5万9475円です。しかし、月額賃金に占める厚生年金保険料の割合は、65万円では9.15%ですが、71万円では8.38%、75万円では7.93%と少なくなってしまいます。
厚生年金でもらえる金額は、納めた厚生年金保険料が多くなるほど増えるようにできています。そのため、月額賃金が71万円・75万円の人がもしも厚生年金保険料を9.15%で納めていれば将来の年金額に反映されるはずだった部分が生じます。図では、71万円の場合0.77%分、75万円の場合1.22%分が反映されなくなってしまいます。
厚生年金保険料の標準報酬月額の上限を65万円から75万円に段階的に引き上げることで、高所得層により多く厚生年金保険料を負担してもらうことで年金財政が改善でき、負担に応じて高所得層もより多くの年金を受け取れるようになるわけです。
標準報酬月額の上限は、年金の給付額に大きな差が出ないようにするため・保険料の半分を負担する事業主の負担を考慮するために、現行65万円に設定されています。
標準報酬月額の上限設定の考え方
画像:厚生労働省の資料より
現状、標準報酬月額が65万円の上限に達している人は、実は結構たくさんいます。厚生労働省の資料によると、その割合は男女計で278万人、6.5%となっています。そのうち243万人が男性で、男性の9.6%が上限に達しています。
標準報酬月額別の被保険者数分布割合(男性)
画像:厚生労働省「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の概要」より
左の青いグラフの分布が厚生年金の標準報酬月額別の分布(男性)です。男性の場合、最高等級の32等級、標準報酬月額65万円の割合がもっとも多い(最頻値)となっていることがわかります。そこで、最高等級に達している人が一定以上いる場合に標準報酬月額を引き上げることができるルールが導入されることになりました。これによって今回、厚生年金の標準報酬月額が引き上げられます。