はじめに
NISAやiDeCoの普及により投資信託の積立もずいぶん一般化してきました。充分な運用期間が見込めるのであれば、資産形成の有効な手段になり得ますが、万が一途中で積立が続けられなくなったらどうなるのでしょうか。今回はそんな「もしも」に向き合います。
積立投資に保険をかける「つみえーる」とは
人気投資信託「ひふみ」シリーズを運用するレオス・キャピタルワークス株式会社が、6月30日に保険サービス「つみえーる」を発表しました。同社の「ひふみ」シリーズの投資信託への積み立て投資と、T&Dフィナンシャル生命保険が提供する保険が一体となった商品と説明されています。
つみえーるは、積立投資に保険をかける仕組みです。もし積立期間中に、万が一のことがあったら、これから積み立てる予定金額の合計額が保険金として一括で支払われます。
例えば月々1万円を18年間積み立てる予定であったのに、5年目に投資をしていた方が亡くなったとします。家族の死によって家計収入が大幅に減少すると積み立てを継続するのが困難になります。
そんな時につみえーるは、契約者が生きていれば実行したであろう積立金額13年分、つまり156万円を保険金として一括で遺族に支払、遺族はその保険金を原資に積み立てを継続する仕組みです。
つまり、つみえーるの保険料を支払うことにより、家族になにがあっても間違いなく月々1万円の積み立てを18年間実行できるのです。投資信託を18年間、長期積立運用するので、運用利回りを得ながらまとまった資金を得られる可能性も継続されます。
学資保険との違い
「つみえーる」の紹介サイトでは、有効な活用事例として教育資金作りを挙げていますので、学資保険と比較しながらどこがどう異なるのか考えてみましょう。保険料は契約者の性別、年齢で異なるので、今回は35歳の父親が0歳の子どものために資金を準備するという設定で比較します。
最初に学資保険から試算していきましょう。保険会社によって保険料など異なりますが、今回はかんぽ生命の学資保険でその仕組みを解説します。なお、保険料等は経済状況によっても見直しされるので、以下の情報は2025年7月現在のものと理解してください。
父親は35歳、子どもは男の子で0歳としました。大学入学資金として400万円を準備する保険です。特約にお子さんの入院保障が付けられるのですが、今回はなしで進めます。
保険料は19,960円です。計算の速い人ならお分かりかと思いますが、実際に払い込む保険料の合計額は満期保険金の400万円を上回ります。保険料の支払方によっては、満期保険金の400万円を下回るケースもあるようですが、今回は割愛します。
学資保険は万が一の際にその後の保険料の支払が免除され、満期時に満期保険金が支払われます。ここでいう万が一とは、父親が死亡した時あるいは所定の高度障害の状態になった時に以後の保険料を支払うことなく、こどもが18歳になると満期金の400万円が受け取れるのが学資保険の仕組みです。
では、つみえーるで試算してみたらどうでしょうか? 今回はひふみワールドという世界の成長企業に投資をする投資信託での積立を想定しました。同社では、過去の実績をもとにモンテカルロシミュレーションという方法を用いて試算を行い、毎月11,000円を積み立てると18年後に90%の確率で400万円が達成できると示しました。
実際ひふみワールドの詳しい資料を見ると、2019年の設定以来の運用成績は139.04%、直近3年の運用成績は61.79%となっていますので、経済成長の恩恵を受ける投資信託での積立は魅力があるところです。
では、保険料はどうでしょうか? つみえーるの保険料は、毎年変わります。今回の例であれば、1年目は1,090円で確定ですが、2年目以降は現在の料率で計算されたもので実際には異なることもあるとして提示され、2年目は1,110円、3年目は1,060円、4年目が1,000円、5年目は940円、さらにそれ以降の保険料は示されていません。これは団体保険形式をとっているため、母数の状況によって計算が変わるからです。
例えば、1年目は投資信託の積立として月々11,000円と保険料として月々1,090円を支払います。万が一契約者である父親が積み立てをはじめてわずか1ヶ月で亡くなると、以後の積立予定額であると2,365,000円が死亡保険金として一括で支払われます。
2年目は投資信託の積立として月々11,000円と保険料として月々1,110円を支払います。万が一契約者である父親が積み立てをはじめて13ヶ月で亡くなると、以後の積立予定額であると2,233,000円が死亡保険金として一括で支払われます。
このようにつみえーるの死亡保険金は、時間の経過とともにどんどん少なくなっていきますが、保険料の変動は必ずしも減少していかず状況によっては上がることもある点は一般的な保険料の成り立ちからすると様子が異なりますので注意が必要です。
また、今回の事例のように父親が亡くなった場合、それまで積立運用された資金は相続財産として扱われます。従って、遺族が積立を継続する場合、速やかに手続きを行い、受け取った保険金を積立にまわす必要があります。
つみえーるは、あくまでも投資信託の積立を継続することを前提としており、かつ将来の受取額が保証されているものではありません。運用成果は市場環境に左右されるので、シミュレーションの通りの金額になるとは約束されていません。
繰り返しになりますが、学資保険の場合、契約者である父親が亡くなると、以後の保険料の払込が免除となり、18年後に満期金として約束された金額が受け取れます。同じ「教育資金作り」の選択肢だとしても仕組みがずいぶん異なるのでしっかりと理解した上で検討をしたいものです。
つみえーるの積立予定額を保険金として受け取れるケースは死亡だけではありません。他にも、障害介護の状態になって積立が継続できなくなった時、三大疾病により積立が継続できなくなった時に、死亡時と同様にその後の積立予定額を一括で受け取ることができます。
個人的には、三大疾病給付金、特にがんと診断確定された場合に、保険給付金がおりるのは、若い世代にとってもニーズはあるのではないかと感じました。なにがあっても積立を辞めない、経済成長の恩恵を受けながら教育資金を準備する、そういう理解であれば、つみえーるは教育資金作りに有効な「仕組み」のひとつであると考えます。