はじめに
SNS大手のLINEが12月20日、シェア自転車事業に参入することを表明しました。中国最大手のシェア自転車事業者モバイクと資本提携をするのです。これから先、シェアエコノミーが伸びるとされていますが、それにしてもなぜそこにLINEが参入するのでしょうか。
同社の出澤剛社長は「LINEはシェアサービスと相性が良い」と話しています。今回の提携がこの先、どのようなビジネスに発展しうるのか、考えてみましょう。
シェア自転車事業とは何か
今回、LINEが参入するシェア自転車事業。中国の今年のヒットビジネスに挙げられており、現地では1,000万台以上の自転車が稼働しています。
会員になると、スマートフォンに専用アプリをダウンロードして、街角に配置されているシェア自転車の鍵を開錠して使うことができるという仕組みです。借りた自転車は専用の駐輪場であれば、借りた場所とは異なる駐輪場に乗り捨てできます。
モバイクのシェアサイクルサービスを利用するには「会員登録する」「保証金をクレジットカードで払う」「画面に表示した地図から、専用の駐輪場を探す」「借りたい自転車の車体のQRコード読み取って開錠する」といった機能が必要になります。
LINEはモバイクジャパンに出資したうえで、このサービスを専用アプリではなく、LINE上で行う方向でサービス設計を始めているようです。
LINEが向いている4つの理由
シェア自転車事業は、いくつかの点でLINEに向いています。
1つは、典型的なネットワーク規模が効くビジネスである点です。同じものを共有する場合、加入者が1万人のベンチャーよりも1,000万人の巨大ネットワーク企業のほうがずっとシェアの効率は良くなります。
2つ目に、共有する自転車が便利に使われるためには、稼働する自転車の台数と駐輪場の数が多く必要になります。そのためには一定規模の資本が不可欠ですが、これはLINEのように上場している大企業のほうが有利です。
3つ目に、LINEはそれらの駐輪場の配置や自転車の台数をどう設定するかについて、最適なデータを持っています。LINE会員の位置情報データです。これを効率的に活用すれば、自転車が頻繁に利用されそうな地域がどこで、そこにどれくらいのユーザーが存在するのかがわかります。
そして最後に、IoT(さまざまなモノがインターネットにつながること)がシェアビジネスに非常に有効である点です。LINEはそもそも人と人がつながるアプリですが、これは人とモノの間でも効果を発揮します。元々の技術がIoTととても親和性が高いのがLINEなのです。
出澤社長の発言に込められた真意
こうして考えるとLINEの出澤社長が言う「シェアサービスはLINEと相性が良い。これからいくつかのサービスが立ち上がる」という言葉の意味が見えてきます。
LINEを使えば、人とモノとがつながることができ、そこでメッセージをやり取りすることができます。モノと人、各々のGPS情報もわかりますから、シェアされているモノが確かにその人に使われていることもわかります。そして、アプリ上で課金もできますから、保証金も料金も簡単にやり取りできるわけです。
そうなると、自転車だけでなく、カーシェアもできますし、バーベキュー用品や電動工具など普段あまり使わない商品のレンタルサービスも提供できます。これらのシェアサービスのノウハウが蓄積できれば、論理的にはエアビーアンドビーのような民泊サービスでも、ウーバーのような配車サービスでも、LINEは名乗りを上げられるようになります。
今回の提携劇は、おそらくこの点が一番重要なポイントだと思います。極論をいえば、シェア自転車ビジネスというものが日本でうまくいくかどうかは、どちらでもいいという見方さえできます。LINEにとってシェアサービスに関する運営ノウハウが蓄積できさえすれば、それで未来への投資が完了するわけです。
LINEの前に広がるビジネスチャンス
そうなれば、後は自転車以外のシェアサービスを横展開していけばいいのです。その中にエアビーアンドビーやウーバーが掘り当てた“金脈”のような新事業が発見できれば、そこで巨大なビジネスチャンスを手に入れることができるわけです。
それだけではありません。競合企業のサービスにLINEの便利なコミュニケーションスキルを導入することで、シェアサービスに類似するサービスでの世界シェアをひっくり返すことができるようになるかもしれません。
考えてみれば、レンタカーを借りるのでも、ホテルに宿泊するのでも、航空機に搭乗することでも、すべてのやりとりはLINEに置き換えることができるはず。近い将来、チェックインカウンターで手続きすることなく、スマホ上でやり取りするだけで完了するはずです。
空港に着いて、LINEで「チェックインします」「座席はA24です。ゲートに向かってください」「ゲートに着きました」「搭乗開始は7分後、20時20分を予定しています」みたいな感じでシステムとやり取りを続けるだけで、ゲートにスマホをかざして座席に座れる時代がやってくるかもしれません。
あらゆるチェックインがLINEで済む将来を考えると、今回の提携はそのための1つの布石にすぎないことがわかってくるのです。
(写真:ロイター/アフロ)