はじめに
iDeCoは掛金が全額所得控除となるため、節税を目的のひとつとして挙げられることも多いのですが、実際の節税効果はその方の所得によって異なります。そのためシミュレーションサイトなどを利用することも多いかと思いますが、2025年の税制改正に対応していないところもあるため、利用する場合は注意が必要です。
2025年の税制改正にシミュレーションが対応していない?
2025年の流行語は、もしかしたら「手取りを増やす」かも知れません。選挙の度に、この「手取りを増やす」は叫ばれてきましたし、実際今年の年末調整の際には「手取りが増えた」ことを実感される方も少なくないでしょう。なぜかというと、2024年より給与所得控除、基礎控除が拡大され、課税所得が減り、所得税が減り手取りが増えるからです。
iDeCoの節税効果も手取りを増やすことにつながりますが、2025年は税制改正が行われたため年収がそれほど多くない方はiDeCoの節税効果が減少する、あるいは消滅する事態が起こります。
今回の改正ルールは年末調整で適用されるため、自身の課税所得の変化を知らないままiDeCoの掛金を拠出し続けると、年の暮れに「節税効果がなかった」とがっかりしてしまう方が出てくるかも知れません。
特に注意が必要なのは、金融機関が提供しているiDeCoの節税シミュレーションがまだ令和7年の改正に対応していないところがあることです(筆者調べ)。シミュレーションは便利ですが、計算の前提条件を理解せずに結果を鵜呑みにしてしまうと間違った理解に繋がります。
税制改正対応前のシミュレーションでどう変わる?
今回は、iDeCo公式サイトが提供する「かんたん税制優遇シミュレーション」を用いて、画面に表示される令和7年の税制改正対応前の節税額が実際にどうなるのかを検証していきたいと思います。
2025年の改正は、所得税がかからない「年収の壁」を160万円まで引き上げたので、端的にいうと年収160万円までの方はiDeCoの掛金による所得税の還付はありません。支払うべき所得税がないので還付される税金がないからです。
しかし、先ほどご紹介したiDeCo公式のシミュレーションでは、月々1万円の拠出をすると、所得税の節税効果は6,000円と表示されます。実際は0円なのに、シミュレーションでは6,000円、いったいどういうことでしょうか?
2025年の税制改正が反映されると年収160万円の場合、給与所得控除は65万円で、基礎控除は95万円なので、合計160万円となり所得税は0円となります。つまり、iDeCoの掛金を拠出しても「還付する税金」がありません。
一方シミュレーションは令和6年の税制のままで計算されているので、基礎控除が48万円のままで計算されているのです。特にこちらのシミュレーションでは、65歳まで同条件で掛金拠出を継続する前提で、大きな節税効果が期待できると表示される点も誤解を招きそうです。
年収160万円のケースはいわゆる「年収の壁」の引き上げによって、課税所得がなくなるためにiDeCoの節税効果が消滅した場合ですが、一定の年収を超えている方でも基礎控除の引き上げで対応する税率が変わりiDeCoの節税効果が薄れる人もいます。
例えば年収665万円で月1万円の拠出をする場合、シミュレーションでは、年間12万円の拠出で所得税の節税効果は24,000円と出てきます。これは課税所得が330万円以上となり、かかる税率が20%であるため、掛金の20%が節税効果と計算されているからです。
しかし、年収665万円の場合、令和7年と8年については基礎控除が68万円になる関係で、課税所得は330万円以下となり、かかる税率が10%となるため、同じ掛金でも節税効果は10%の12,000円に留まります。さらに令和9年以降の基礎控除額は58万円に変更されるため、それ以降も同じ掛金での節税効果が変わってきます。
以前「iDeCoの節税メリットを失う人も。「年収103万円の壁」引き上げによる影響とは」でも取り上げましたが、年収目安としては300万円が節税メリットがあるかないかの区切りになるのではないかと考えます。もちろん給与所得控除、社会保険料控除、基礎控除の他にも受けている控除が多ければ課税所得が減り、節税効果も薄まりますので、それぞれ確認する必要があります。