はじめに
「あなたの口座が犯罪に使われている可能性があります」。
突然こんな電話がかかってきたら、多くの人は動揺してしまうでしょう。しかも着信画面には、警視庁の代表番号や、末尾が「0110」の警察署と思われる番号が表示されていれば、「これは本当に警察からの連絡だ」と思い込んでしまっても無理はありません。
しかし、このような“警察官や検察官を名乗る特殊詐欺”が全国で多発しています。特殊詐欺の被害総額は2025年上半期で過去最悪の約597億3000万円にのぼり、このうち警察官を騙る詐欺の被害額は389.3億円で、なんと特殊詐欺全体の65.2%を占めています。
高齢者だけでなく、現役世代の被害も急増中で、世代を問わず狙われていると考えたほうがよいでしょう。実際、筆者の知人でも30代の方が100万円、40代の方が300万円を騙し取られる被害にあっています。本記事では、最近特に増えているビデオ通話を悪用した新しい手口と、心理的な落とし穴、そして被害を防ぐための具体的な対策を解説します。
【実例】36歳男性も騙された…本物そっくりの演出で資産を奪う詐欺グループ
東京都在住の加藤さん(仮名・36歳男性)が在宅で仕事をしていたところ、突然電話がかかってきました。
着信画面には警視庁の代表番号が表示されています。電話に出ると、「警視庁捜査2課のモリタです」と相手の男性は名乗りました。自分に警視庁から電話が来る用件はないはず。もしかすると、なりすましの詐欺か…?と加藤さんは考えましたが、電話の男性は続けて、「加藤さんですね。お住まいは東京都◯◯区…」と名前と住所の一部を言い当てて来たのです。
動揺する加藤さんに、相手は畳みかけるように 「あなたの銀行口座が、特殊詐欺の資金洗浄に使われている可能性があり、詳しく確認する必要があります。追って担当者から連絡を入れます」と伝え、電話を切りました。
数分後、今度は"大阪地検特捜部の検察官”を名乗る人物からビデオ通話が入りました。応答すると、画面には検察官バッジらしきものを胸に付けたスーツ姿の男性が映り、背後には「特捜部」と書かれた札が掲げられています。
「本当に公的機関の人間だ」と信じ込んだ加藤さんは、指示されるまま預金の詳細を伝え、最終的には「預金を保護するため」という名目で指定された口座へ、預金の全額を振り込んでしまいました。しかし、その振込先は公的機関ではなく、犯人グループの口座。預金は保護されるどころか、全額が騙し取られ、返ってくることはありませんでした。
なぜ信じてしまうのか? 思い込みを増長させる手口
この手口が危険なのは、「番号」や「見た目」によって信用を増長させる点です。
- 着信番号の偽装:警察署や警視庁の公式番号をスマホに表示させる
- 部分的に正確な情報:住所や名前を言い当てられることで「あ、この人本物?」という思い込みが強くなる
- ビデオ通話での演出:制服やバッジ、背景や小物を巧みに配置
- 専門用語で不安を煽る:「逮捕状」「資金洗浄」「資金調査」などのワード
こうして「公的機関であるらしい証拠」を次々と見せられると、たとえ普段は冷静な人でも動揺し、矛盾に気づきにくくなります。実際、こうした心理的圧迫と演出の組み合わせは、詐欺グループが意図的に使っている戦術です。
次の行為は最近の特殊詐欺でよく使われる手法ですが、本物の警察・検察は決して行わないことを覚えておきましょう。
• ビデオ通話で取り調べを行い、身分証や逮捕状を提示すること
• 捜査のためにお金を送金させること