はじめに

日経平均株価がバブル後の最高値更新を続ける中、自民党総裁選の実施が決まりました。実施日は10月4日。総裁選の結果が株式相場にどのような影響をもたらすのか、また誰が総裁に就任したらどのような銘柄が買われるのでしょうか。今回は、それを考察してみましょう。


直近相場は買いの主体が不鮮明な“謎上げ”

株式相場は堅調に推移しています。東証が毎週木曜日に発表している「投資主体別売買動向」によると、買いの主体は事業法人(=一般企業の自社株買い)。4月以降、日本株を買いまくっていた外国人投資家は、7月第5週から9月第2週までの7週間で約1000億円の売り越しとなりました。この間、個人投資家は約2000億円の売り越しです。

2025年がスタートしてから事業法人は一貫して日本株を買い越しており、特に同期間の買いが突出していたわけではありません。つまり、日経平均株価は、買いの主体がよくわからないまま“謎上げ”していたというのが、8月から9月にかけての日本株の実情です。エコノミストや株式評論家など、複数の専門家の間で「新首相誕生による政策期待」が日本株上昇の背景にあるとの見方が有力になっています。

特に、次期総裁の有力候補である高市早苗前経済安全保障相が掲げる政策(サナエノミクス)は、「積極的な財政出動」と「金融緩和」が根本にあり、これが株式市場にとってポジティブと捉えられているようです。要は、「高市総理誕生」への期待感が相場を押し上げているということ。高市氏の政策を期待する買いは「タカイチトレード」と呼ばれ、高市氏が注力するとされる業種、セクターへの買いが目立ちます。では総裁選後、小泉氏と高市氏のどちらかが総理に就任した場合、それぞれどのような相場展開が予想されるでしょうか。

余談ですが、岸田文雄元首相は第100代・101代首相で、石破茂首相は102代・103代首相なので、次に新たに就任する首相は「第104代」。高市氏が総理大臣に就任した場合、第104代かつ「初の女性総理」となることは、ご存じの方も多いでしょう。一方、小泉氏が首相就任となれば、第34代首相の近衛文麿以来、実に88年ぶりとなる「40歳代の首相誕生」となります。大政奉還以降の近代・現代日本史の中で、40歳代で首相に就任したのは初代の伊藤博文、第2代・黒田清隆、前述の34代・近衛文麿の3人のみ。そういう意味で、小泉氏が首相に就任すれば日本史に名を刻むことになりそうです。

「高市ルート」なら現在の相場状況は継続、首相就任後の具体策を注視

さて、本題に戻りましょう。この原稿を書いている9月29日時点で判明している世論調査の結果を見ると「次期自民党総裁にふさわしい人」という設問に対し、高市氏が30%超の支持を集めてトップ。次点は25%で小泉氏、以降は林芳正官房長官、茂木敏充前幹事長、小林鷹之元経済安全保障相となっています。世論調査では、高市、小泉両氏と他の3名との差は大きく開いていますが、ここにきて林氏が上の2人を猛追しているとの一部報道も出ています。

2024年の自民党総裁選では、石破首相が圧倒的有利と目されていた高市氏を破って大逆転勝利を果たしたように、勝負はフタを開けてみないとわからないのが正直なところです。現在も、議員票を巡って水面下でやり取りが続いているでしょう。投資家としては、どの賽の目が出ても対応できるよう、準備しておく必要がありそうです。ここでは、高市氏が勝利する「高市ルート」と、小泉氏が勝利する「小泉ルート」をメインに、今後の相場展開を考えてみます。

まずは「高市ルート」から。前述したように、高市氏の考え方の根本にあるのは、積極財政と金融緩和です。どちらも円安要因であり、実際に足元では1ドル=146円台から149円台まで円安が進行。積極財政による景気浮揚と円安を背景とした日経平均株価の上昇が、高市トレードの正体でしょう。高市氏が首相に就任すれば、「高市トレード」が継続する公算が大きいと思われます。もっとも、ここにきて一部で「小泉氏優勢」や「林氏が猛追」との報道が出てきたことから、株安もあって高市トレードの勢いが弱まりつつあるようです。米国株安の影響もあるでしょう。

総裁選に向けた所信表明で、高市氏は「日本をもう一度高い位置に押し上げる」と決意を述べました。しかし、所信表明では具体的な政策にはあまり触れず。公約では、経済安全保障に関する政策や食糧問題、エネルギーの確保、国土強靭化、サイバーセキュリティの強化などを掲げています。「財政出動によって経済成長を促進させ、税収を増加させる」主張をする一方で、財政健全化や日銀の利上げに関しては後ろ向き。積極的な財政出動と利上げに否定的な方針は、いずれも円安を助長する姿勢です。

9月の株式相場が「高市トレード」への期待感で上昇したとすれば、高市氏の首相就任後も、「米国相場が大きく崩れなければ」という条件付きではありますが、「円安・株高」という、これまでと似たような相場展開が期待できます。ただ、首相就任後は、野党との政策協議を経て、より具体的な政策を打ち出すことになるため、買われるセクターや業種が限定されていくことになるでしょう。

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