はじめに

「家族サポート証券口座」という新しい仕組みが、日本証券業協会によって創設されました。認知症対策の一環として注目されるこの制度ですが、どのような内容なのでしょうか。今回は、認知症に伴う金融資産凍結のリスクと、その備え方について考えていきます。


認知症により口座凍結が起こる可能性がある

超高齢社会を迎えた今、私たち一人ひとりにとって「認知症」への理解と備えは欠かせません。認知症とは、様々な病気によって脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、記憶や判断力などの認知機能が衰えることで、日常生活に支障をきたす状態をいいます。

厚生労働省研究班の推計(政府広報オンライン 2025年1月16日)によれば、2022年度時点で65歳以上のうち約12%が認知症、約16%がその前段階とされる軽度認知障害(MCI)とされています。つまり、およそ3人に1人が認知機能の低下に関わる症状を有している計算です。

認知症になると、本人の判断能力が不十分とみなされ、各種の契約行為が制限されます。例えば銀行の場合、預金の引き出しや解約などができなくなる「口座凍結」が起こることがあります。これは本人の財産を不正利用や誤判断から守るための人権擁護措置として行われますが、同時に生活資金が引き出せないなどの問題も生じます。

こうした場合、法定後見制度を利用して家庭裁判所が選任した後見人が手続きを行うことになりますが、申立から開始までには一定の時間がかかります。そのため、事前に備えることが重要です。

比較的簡易な生活費の出し入れが中心であれば、銀行の代理人制度を活用する方法があります。これは、本人の判断能力があるうちに信頼できる家族を代理人として届出するもので、代理人は預金の引き出しなどを代行できます。ただし、口座凍結後や認知症発症後には利用できないため、早めの手続きが必要です。

より広い範囲の契約行為を想定する場合には、任意後見制度を利用して、信頼できる人に将来的な財産管理を委ねる方法も有効です。

証券会社には代理人制度がなかった

一方、証券会社ではこれまで銀行のような代理人制度がなく、取引は原則として本人のみが行える仕組みでした。そのため、本人に判断能力の低下が見られると、売却も解約もできず「資産はあるのに動かせない」問題が指摘されていました。

こうした課題に対応するため、日本証券業協会は2024年9月に「家族サポート証券口座」の制度枠組みを整備しました。これは新しい法律に基づく制度ではなく、民法上の任意代理契約(委任契約)を活用した自主ルールです。

仕組みとしては、証券口座を持つ本人が信頼できる家族などと公正証書で委任契約を結び、その契約内容を証券会社に届け出ることで、本人の判断能力が低下した後でも代理人が一定の取引を継続できるようにするものです。

現時点では、生活費の確保などを目的とした売却・換金が中心であり、新規の株式買付けなどリスクを伴う取引は対象外とされていますが、制度としては大きな一歩といえるでしょう。

ただし、現段階でこの制度を導入している証券会社はごく一部に限られ、利用の詳細は各社によって異なります。また、売却資金の振込先は本人名義の銀行口座となるため、その銀行口座が凍結されていれば事実上資金が使えないという課題も残ります。

さらに、後見制度と異なり家庭裁判所などの監督が入らないため、代理人による不正利用防止の仕組みについても今後の検討課題と考えます。

筆者は、ファイナンシャルプランナーとしてお客様の豊かな人生設計に寄り添い、また後見人としての活動を通して人生の後半期の豊かなお金の使い方を日々模索しております。

その中で注目しているのは、マネックス証券が展開する「たくす株」という仕組みです。
こちらは信託契約に基づく制度であり、信託財産の受益者(資金の受け取り先)をあらかじめ指定できる点が特徴です。

家族サポート証券口座が「委任契約型」であるのに対し、「たくす株」は信託法に基づく信託型という違いがあります。そのため、資金の受け取りや承継を柔軟に設計できる一方で、遺留分などの相続上の配慮も必要となります。

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