はじめに

「穴埋方式」への一本化で"掛金上限額の複雑さ"は解消へ

このような混乱も今回の法改正でずいぶんすっきりするはずです。第2号被保険者の確定拠出年金の掛金上限額は62,000円に一本化される見込みです。企業型DCがある人もiDeCoとの合算が月62,000円。DBがある人もその「他制度掛金相当額」とiDeCoとの合算が月62,000円。企業型DCもDBもある人も、iDeCoとの合算が月62,000円です。

これを厚生労働省では「穴埋方式」と呼ぶようですが、確かに制度説明をする図は、断然シンプルになりました。

企業年金がない会社にお勤めの方が自分で創る自分年金の上限額と、企業年金がある会社にお勤めの方が、企業年金と合わせて創る自分年金の上限額が一律になる、これが改正後の確定拠出年金の姿です。

掛金引き上げの具体的なスケジュールはまだ発表されてはいませんが、恐らく施行の段階では、企業型DCの掛金やDBの掛金相当額を踏まえてiDeCoでいくらまで拠出できるのかの「見える化」が進むのではないかと想像します。それにより恐らく「iDeCoはわかりにくい」という評判は返上されるのではないかと期待しています。

残された課題:「受取時の税制(退職所得控除)」の不透明さ

しかしながら、筆者が「確定拠出年金のわかりにくさ」だと感じる点は、受取時の税制つまり退職所得控除のルールの不透明さです。

先日もSNS等で「5年ルールが2026年から10年ルールになる」との話題が大騒ぎになりました(参考記事:手取りはどれだけ減る? 「iDeCo改悪」によってどのくらい不利益を被るか)が、実はそれとは別に、2024年に確定拠出年金の受取りが75歳まで延長されたと同時に、15年ルールが20年ルールに変更されるということもありました。

確定拠出年金は、企業型であれば個人型であれ、税制上は会社の退職金と「一体化」してひとつの退職金として扱うため、その加入期間が勤続年数と重複するとその分は控除額として認められなくなるという仕組みがあります。

確定拠出年金の受取りだけを特別に有利にさせてはいけないという理由なのでしょうけれど、それでもいきなり5年から10年、15年から20年とルール変更されてしまうと、資金計画が狂ってしまいます。

また「退職所得控除」の計算方法自体を見直そうとする動きもこれまで何度かありました。退職所得控除は、勤続年数20年までは1年あたり40万円で、それを超えると1年あたり70万円で計算するため、同じ会社で長く働けば税負担が軽くなる仕組みは今の時代に合わないのではないかという議論です。

これが、勤続年数が短い方でも税の軽減が受けられるような変更になるのか、それとも退職金制度の存在自身が変わるのか分らない今、確定拠出年金をどう活用するべきか、なかなかアドバイスも難しいと感じる部分があります。

掛金上限額が引き上げられ、さらに掛金を拠出できる期間も延長されるようになると、受取時点で課税される可能性が高くなります。さらに退職所得控除のルール変更により、課税が多くなるとしたら、確定拠出年金の利用を躊躇する人も出てくるのではと考えるのです。実際受取時の見通しが立たないと不安だという方も少なくありません。

退職金との「一体化」が生む私的年金iDeCoのジレンマ

確定拠出年金は退職金の新しい形として企業型を中心に普及が進みました。そのため任意加入である個人型確定拠出年金も退職金という枠組みの中で制度が整えられてきました。そのため、受取時に退職金として扱われるのは当然なのかも知れませんが、筆者は企業が自社の福利厚生として実施する企業型確定拠出年金と、私的年金制度である個人型確定拠出年金を同様に扱うのは、どこか無理があると思うのです。

企業型DCをiDeCoに移換した際に、加入期間が通算されるなど、色々と整理しなければならない点もありますが、任意加入であるiDeCoには、NISAのような生涯枠と非課税での受取上限を設けるなどといった工夫を今後考えていかないと、確定拠出年金の「わかりにくさ・不透明さ」は払拭されないのではないかと思っています。

確定拠出年金は、私たちの将来を支える重要な仕組みです。制度の安定と分かりやすさが両立することを期待したいところです。

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