はじめに

この2つがノーマルになる未来とは?

省エネ基準の高度化と賃貸住宅のセーフティネットの拡充。これらが普通になった社会は、今とは違ったものになる可能性があります。

1. 持ち家は「購入後のコスト」が底上げされる可能性も

性能を維持・向上させるためのリフォームや設備更新の重要性は増し、購入後の標準コストが底上げされる可能性があります。物価上昇が続けば、その負担はさらに増えるでしょう。高齢期に持ち家に住み続けることを想定するなら、修繕や更新費用を計画的に組み込む資産形成が一層重要になる可能性があります。

2. 賃貸は長く暮らしやすくなる

高齢者でも賃貸に入居しやすい仕組みが整えば、住み替えや介護施設への移行がしやすくなるかもしれません。高齢期に一人暮らしをするリスクの1つとして、万が一のときに助けを呼べない、あるいは助けを呼べても対応できないかもしれない、というものがあります。助けを呼べても、救助に来てくれた人が玄関で開錠できず、立ち往生してしまう可能性があるためです。

NRI(野村総合研究所)のまとめたレポートでは、今後は持ち家の着工件数は減少する一方、貸家の着工件数は安定して推移する予測が示されています。賃貸住宅が増え、入居中のサポート体制が整っていけば、賃貸の方が社会とのつながりを持ちやすく老後の暮らしが快適な時代になるかもしれません。

未来を正確に予測することはできませんが、少なくとも「持ち家は老後安心」という構図は崩れつつあります。

今、急いで買うべきではない理由

日々ご相談をお受けしていると、住宅ローン返済が資産形成を圧迫しているケースを見かけることは少なくありません。家を買うということは住まいを固定すること。その選択には、次のようなリスクもあります。

1. 自然災害の多発と火災保険料の上昇

近年の自然災害の多発をうけ、損害保険会社の財務状況は悪化、物価上昇もあいまって保険料は上昇傾向にあります。地域ごとのリスクを反映した料率設計の動きも見られます。ハザードマップがない地域もまだありますが、年を追うごとに対応の裾野は広がりつつあります。地域によっては、将来的に維持修繕費用だけではなく、保険料負担が重くなる可能性があります。

2. 人口減少による地域インフラ格差

土地価格が高騰する地域もあり、全国的に地価が持ち直してきた一方、生活面では人口減少により交通・病院・スーパーなどのインフラが縮小する地域も増えています。特に高齢期に安心して生活していくためには、生活の基盤が整っていることが重要です。家があるからといって、「一生今の暮らしを維持できる」とは限らない時代になりつつあります。

3. 空き家の増加

国土交通省「令和5年住宅・土地統計調査」によると、直近の空き家率は13.8%ですが、NRIのまとめたレポートでは現状の除却ペースであれば2043年には空き家率は25.6%まで増加する、といった予測が示されています。空き家が増えれば地域には景観や治安などさまざまな面でマイナスの影響を与える可能性が考えられます。中古住宅の流通を促す新たな政策が期待されています。

4. 老後費用の増加

長生きによって、必要な老後資金額は増加しています。住まいと生活は切り離せないものですから、持ち家であれば長生きするほど修繕・維持費用の負担は避けられません。FPとしては、人生の晩年の暮らしもライフプラン実現に重要な要素だと考えます。現役時代に資産を蓄え、老後に適した住宅へ住み替えもできる戦略に価値があると考えます。

これらを踏まえると、「とりあえず買っておこう」という短絡的な判断はリスクを高める可能性があります。むしろ、家計やキャリア、ライフプランの見通しを整理してからでも遅くありません。

家を選ぶ順番を間違えない

法改正によって、持ち家には「買う責任・使う責任」がこれまで以上に求められる一方、賃貸は高齢期まで安心して暮らせる方向へ進んでいます。「持ち家=安心」という構図は大きく変わりつつあります。

家は一生で最大の買い物かもしれませんが、大きな資金負担にもなり得ます。まずは自分の働き方や家計の未来予想図、資産形成の方針を描いてから住まいを選ぶ。この順番を間違えないことが、将来の後悔を防ぐ最大のカギといえるかもしれません。

【参考資料】
経済産業省資源エネルギー庁ウェブサイト
・経済産業省「GX ZEH・GX ZEH-M定義<戸建住宅・集合住宅>令和7年9月
国土交通省資料
・国土交通省「住宅セーフティネット制度 ~誰もが安心して暮らせる社会を目指して~
・NRI「2040年の住宅市場と課題~変わりゆく住宅着工の潮流、変化に対応した取組を~

この記事の感想を教えてください。