はじめに
「年金に所得再分配の機能がある」ことは、あまり知られていません。実は、所得の低い人にとって、有利に働く仕組みになっているのです。
2025年の年金制度改正で、「給付水準が下がる見込みがある場合、厚生年金の一部を基礎年金の底上げに活用することを検討する」という項目が盛り込まれました。国会審議では立憲民主党の野田佳彦代表が「あんこのないあんパンだ」と表現し、話題になりました。また、「厚生年金の財源を使うのは会社員に不利だ」という声もSNSなどで多く見られました。
しかし、基礎年金を底上げすることは、結果的にすべての国民の年金受給額の増額につながります。その理由は、公的年金の仕組みにあります。基礎年金は全国民が加入し、その上乗せとして会社員や公務員が加入する厚生年金があります。
つまり、基礎年金が増えれば、全員の年金が増えるのです。逆に基礎年金の財源が不足して減額されれば、すべての人の年金も減ることになります。なお、この改正は2029年の財政検証時点で、基礎年金の財源が不足していた場合に実施されることになりました。
基礎年金は「みんなで支えて、高齢になると支えてくれる」仕組み
公的年金は「2階建て」によく例えられます。1階部分は国民全員が加入する「基礎年金」、2階部分は会社員や公務員が加入する「厚生年金」です。
基礎年金の保険料は定額制で、誰もが同じ保険料を納付します。保険料は物価や賃金の変動に応じて毎年少しずつ変わり、受給額は納付期間によって異なります。満額を受け取るには40年の納付が必要です。
それに対して、厚生年金は賃金に保険料率を乗じて保険料が決まります。給与が高い人ほど保険料が高くなり、年金の受給額も多くなります。逆に給与が低い人は保険料も安くなり、年金の受給額も低くなります。厚生年金の保険料の中には、基礎年金の保険料も含まれています。
また、専業主婦(第3号被保険者)は保険料を直接納めませんが、第2号被保険者(会社員など)の保険料の中で負担されています。