はじめに
「資産は順調に増え、将来の見通しに大きな不安はない」。
それでも、いざ住宅購入や教育費などのまとまった支出を前にすると、お金が減ることに強い抵抗・不安を感じてしまう。そんな高所得夫婦は少なくありません。
日々の仕事に追われながらも、堅実に貯蓄や投資を積み重ねてきた結果、お金を使うことに慣れていない状態に陥っていませんか? しかし、本当に豊かで満足度の高い人生を実現するためには、お金を増やす力と同じくらい「お金を使う力」も欠かせません。
本記事では、資産形成が順調な世帯こそ意識したいお金の使い方について、医師夫婦をモデルに具体的な考え方を解説します。
お金はあるのに使えない:高所得夫婦が感じる意外な不安
ライフプラン作成のご依頼をいただいた医師のAさん(37歳)は、同じく医師の奥様(35歳)と2歳の男の子の3人家族でした。
奥様は勤務時間を抑えているものの世帯年収は2,000万円超。資産も着実に増えていましたが、それでも「本当にお金を使って大丈夫なのか」という不安が常に頭にあり、将来への漠然とした心配を抱えていたといいます。
お金の使い方について伺うと、「とにかく子どもの教育費はしっかり用意してあげたい」という強いご希望がある一方、その他に明確な希望はなく、夫婦そろって無駄遣いをしないタイプでした。
いただいた情報とご希望に基づきAさんご夫婦のライフプランを作成すると、教育費のピークで一時的に資産は減少するものの、100歳時点でも1億円を大きく上回る資産が残る見通しとなりました。
この結果を目にしたAさんご夫婦はまず安心されたものの、同時に「こんなに資産を増やしてどうするのか?」という疑問も抱きました。
そこでライフプラン作成の過程では、無駄遣いではなく、生活の質を高めるためのお金の使い方についても一緒に考えていくことにしました。
資産が増えるほど「動けなくなる」という落とし穴
資産が増えるほど、安心するどころか「減らすことへの怖さ」が強くなる。そんな心理に陥る方は少なくありません。
資産が順調に増えること自体は良いことですが、増やすことが目的化すると、本来の豊かさを損なうリスクがあります。ここでは、実際によくある3つの落とし穴をご紹介します。
1. 買えたはずの住宅を逃す
Aさんも一時期住宅購入を検討していました。しかし「住宅ローンという借金への抵抗感」「手付金だけで数百万円が出ていく不安」から見送ることに。結果、今は価格も金利も上昇し、同じ条件では購入が難しくなってしまいました。動けなくなることで将来の選択肢を狭めてしまう典型例です。
2. 生活の質を上げる機会を逃す
20万円の高性能家電や月数万円の家事代行を贅沢と感じて避ける方も多いですが、時間の余裕やストレス軽減というリターンを考えれば、十分な投資効果があります。「支出=浪費」と決めつけると、日々の効率や満足度を高める機会を逃してしまいます。
3. お金に縛られる生き方になる
「使わない=正しい」と思い込むと、やがてお金を使うこと自体に罪悪感を覚えるようになります。お金を増やすことが目的になってしまえば、お金の「人生を豊かにする手段」という本来の役割を見失ってしまいます。「目的と手段を混同しない」ことは、常に意識しておきましょう。
自分の価値観と向き合い、目的を明確にする
では、お金を手段として正しく活かすためにはどうすればいいのでしょうか。その第一歩が、自分の価値観と向き合うことです。
「住宅を買うべきか?」というのは、多くの方が直面する代表的なテーマです。Aさんご夫婦の場合、持ち家に住み「生活の基盤をしっかりさせたい」「賃料の値上げによるストレスから解放されたい」という思いを、ヒアリングを通して再確認できました。
このような価値観があるのであれば、住宅購入は単なる支出ではなく、価値観を実現するための投資といえます。
住宅に対する価値観を明確にできたAさんご夫婦は、住宅購入を前向きに検討することにしました。
たとえば「なるべく家事の負担を減らしたい」「家事分担で夫婦げんかの原因を作りたくない」といった思いも立派な価値観です。
筆者自身もこの価値観を重視しており、少々値は張りましたが高機能オーブンレンジを購入しました。食事の準備負担が大幅に減り、非常に満足度の高い支出でした。「時間をお金で買う」という目的を明確にした、良い例になると考えています。
このように自分の価値観と向き合い、お金を使う目的を明確にすることで、お金に縛られるのではなく、お金を使いこなす生き方ができるようになります。お金を何に使うかを意識できる人ほど、人生の満足度も確実に高まります。