はじめに

産業の根幹となる資源・エネルギー政策。高市内閣の誕生によって、日本のエネルギー政策は大きな転換点を迎える可能性が浮上しています。クラウドや生成AIの普及を背景に、電力需要は右肩上がりで増え続けることが予測されていますが、高市首相はこれまで再生可能エネルギーの主力と目されていた太陽光や風力発電の開発に“待った”をかけようとしているからです。

ここでは、再生可能エネルギーの中でも日本が飛躍するカギになり得る「地熱発電」に注目。地熱発電に注目する理由と、地熱発電関連株が株式市場でどう捉えられているのかについて考察します。


太陽光、風力への期待が後退し、地熱発電が急浮上

2025年2月、政府は第七次エネルギー基本計画を閣議決定しました。同計画では、「2040年度には再生可能エネルギーを全体の36~38%程度に拡大する」との目標が掲げられています。すでに、第六次計画で同比率を第五次計画の「22~24%」から「36~38%」へと引き上げており、第七次でもこの目標が引き継がれました。第六次から変更された点は、原子力発電の活用方針です。第六次はエネルギー確保について「安全性」を重視し、原発依存度を減らす方針でしたが、第七次ではこれを転換。「既存の原子力発電所を最大限活用する」ことが示されています。

高市首相自身も原子力の活用に積極的な姿勢を見せるほか、次世代エネルギーとして注目されている「核融合発電」の開発に関しても、自らのYouTubeチャンネルで「日本は原子力において優れた技術を持っており、開発を進めるべき」との考えを積極的に公開。政府としても、「2030年代に核融合発電による発電実証」という目標を掲げています。すでに、株式市場では原子力発電所の新設や再稼働、核融合発電に関連する銘柄が注目されています。ただ、核融合発電に関しては商用化が2030年以降と予測されていることから、同テーマが業績や株価へ本格的に反映されるのは当面先のことになりそうです。

一方、これまで再生可能エネルギーの主力と目されていた太陽光発電と風力発電には逆風が吹いています。高市首相は、自民党と日本維新の会で交わした連立政権合意書の中で、「地熱などわが国に優位性のある再生可能エネルギーを推進する」と記したうえで、日本全国の「メガソーラー計画」について、「私たちの美しい国土を外国製(主に中国製)の太陽光パネルで埋め尽くすことには猛反対」、「釧路湿原に太陽光パネルを敷き詰めるやり方はおかしい。(太陽光発電に関する)補助金制度を大掃除する」など、メガソーラーに対する規制を強化する方針を打ち出しています。

「再エネの切り札」と期待されていた洋上風力に関しては、政府が公募した開発プロジェクトを落札した三菱商事が、プロジェクトからの撤退を表明。2024年の風力発電市場は、中国企業が風車製造の1位から4位まで独占しており、高市首相が重視する「日本企業による産業振興」のスタンスと合致しません。そう考えると、日本企業が主原料のヨウ素で高シェアを有する「ペロブスカイト型太陽電池」については、引き続き国策による追い風が期待されるでしょう。しかし、従来型の太陽光発電と洋上風力発電に関しては、政府の積極的な後押しは期待薄です。

地熱発電のメリットとデメリット

再生可能エネルギーのうち太陽光と風力が厳しいとなれば、有望株として浮上するのが「地熱発電」です。地熱発電は、地下の熱水や高温の蒸気を活用してタービンを回して発電する仕組みであり、“資源貧国”の日本で唯一「豊富な資源埋蔵量」を誇る発電手段です。日本は、環太平洋火山帯に位置していて、全国各地で温泉が湧き出す「マグマ大国」であり、地熱資源量は米国、インドネシアに次いで世界第3位を誇ります。この点で、高市政権下で開発が加速する可能性はかなり高いといえるでしょう。

地熱発電のメリットは、
①発電時の二酸化炭素の排出量が極めて小さい
②「純国産」で開発が可能
③掘削した地熱資源はハウス栽培や養殖事業などに多角活用できる
④太陽光や風力と違ってベースロード電源※になり得る
※季節や天候に左右されない安定的な電源

「純国産」が可能という夢のような発電方法である地熱発電。ところが、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、発電設備容量に関しては、インドネシアやアイスランド、ケニアなどで地熱発電が拡大している影響もあって、日本は世界10位にとどまっています。実は、日本では1999年の開発案件を最後に、実に22年もの間、新規開発がストップしていました。その理由は、以下のリスク・デメリットが大きく関係しています。

①開発の難易度、リスクが高い
②開発に時間がかかる
③開発規制がある
④温泉事業者、周辺住民との対話が不可欠

前述のJOGMECによると、地下を掘削して熱源を見つけられる確率は2~3割。熱源を見つけられたとしても、発電に活用可能な十分な蒸気を数十年単位で生産する必要があり、その条件に満たない場合は開発を断念せざるを得ません。また、開発には地層の調査から掘削、設備建設などを含めると、事業を始めるまでに10年以上の時間がかかることも大きなネックのひとつです。

プロジェクト開始から商用化までに10年以上という長い時間がかかるのは、利益を追求する民間企業としてはハードルが高いと言わざるを得ません。また、熱水を汲み上げることで地下水の枯渇や地盤沈下などが起きる可能性があり、地域の温泉関係者や周辺住民との対話は不可欠です。さらに、熱源は国立公園など開発規制が敷かれている地域に偏在するケースが多いことも、開発のハードルを上げています。これらの諸問題が、これまで地熱発電の開発を妨げていたわけです。

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