はじめに
地熱開発のデメリット・リスクは軽減、国策の後押しも
2019年1月、岩手県八幡平市に、かたつむり山地熱発電所が運転を開始しました。新規開発案件として、実に22年ぶりです。とはいえ、政府が掲げる地熱発電の導入目標「2030年度中に1.5ギガワット(原子力発電所1.5基分に相当)」に対して、2024年5月時点の導入容量は0.6ギガワット。開発に長時間かかることを考えると、目標には遠く及ばないのが現状です。
ただ、2024年5月時点、地熱発電所の開業に向けて、日本全国43カ所(JOGMECによる掘削調査支援を受けた1000キロワット以上のプロジェクト)で開発が進められています。地熱発電の開発を後押ししているのは、政府による積極的な支援。前述の地熱発電開発のデメリットのひとつ「開発の難易度、リスクが高い」に対して、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)やJOGMECが試験的な掘削を含む地熱資源調査を実施。また、探査や開発段階において、政府機関による債務保証が行われています。
さらに、技術の進歩が地熱開発の拡大を後押ししています。以前より正確な大深度地下の探査が可能になっているほか、地下掘削のスピードが劇的に上昇。“より深く、より速く、より安全に”地下を掘り進むことができるようになっています。これによって、前述した地熱開発のリスク・デメリットの①と②が大幅に軽減されました。また、政府が国有林や自然公園内における開発規制を緩和したことで、③のリスク・デメリットも減退。残る④の「温泉事業者・周辺住民との対話」については、今後も地道に行う必要があるものの、以前に比べれば商用化までのリードタイムが大幅に短縮されたため、開発事業者にかかる負担は大きく減っています。
関連株の相場はこれからが本番

もう1点、注目したいのは、株式市場における地熱発電関連株の存在感が増していることです。前述したように、国内では新規開発が20年以上もストップしていたため、関連株は相場の圏外に置かれていました。しかし、今後メガソーラーや洋上風力の開発に急ブレーキがかかる可能性があることや、地熱発電が太陽光や風力の代替案として政府が注力する可能性が高まっていることを考えると、関連株の相場はこれからが本番といえるでしょう。
また現在、日米共同でレアアースなど希少金属の掘削・開発に乗り出していることも、地熱発電関連株にとってプラス材料です。つまり、地熱発電は、「資源・エネルギー開発」と「地下資源の開発」という、2つの大きな国策が絡んだ一大相場テーマになり得る可能性を秘めているということ。これまで相場の圏外に置かれていただけに、株価の上値余地も大きいと思われます。
もっとも、日本で最初の地熱発電設備の建設を手掛けた三菱重工(証券コード:7011)や、地熱タービンで世界トップクラスの富士電機(同6504)といった超大手企業は、地熱発電事業が業績に占める割合が小さいため、地熱発電1テーマのみで株価が大化けする可能性は小さいでしょう。PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった株価指標で割安感があるJパワー(9513)や、米国の地熱発電所向けに納入実績を持つ酉島製作所(6363)、Jパワーと共同で地熱発電開発の会社を設立した日鉄鉱業(1515)など、株価水準が比較的低い銘柄が狙い目かもしれません(ただし、長期で保有するなら、有利子負債の水準など財務面のチェックも忘れないようにしましょう)。
もともと、資源・エネルギー関連株は、国策など大きな材料が浮上した際に短期的に人気化し、それが業績拡大に直結しないことが判明すると調整局面に突入、その後再び新たな材料で人気化というループに陥りやすい傾向があります。以前より開発がスピーディーになってきたとはいえ、地熱発電関連の開発にはやはり5年、10年単位で時間がかかるもの。そのため、関連株のウォッチを続け、株価急騰時ではなく、株価が安いところを丁寧に拾っていけば報われるのではないでしょうか。
※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。
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