はじめに
ここ最近、地方都市へ出かける機会が何度かありました。そのたびに、駅近くで見かけたのが「鳥貴族」です。2014年に上場したときは大きな話題となりましたが、私自身は今まで一度も株式を保有したことがありません。
全品280円(税抜)という“均一・低価格”を武器に成長してきた当社は、2017年10月、価格を298円(税抜)均一に改定。これは約28年ぶりの値上げでした。しかし、このわずか18円の値上げが、「安さ」「お得感」を重視していた客層には想像以上に響きました。
価格改定ショックと新型コロナで赤字に転落
「鳥貴族」の来店客数はじわじわと減少し、競合との価格差も小さくなり、業績は低迷へと向かいます。それまでの急成長が一転、上場以来順調に上昇していた株価も2017年12月を天井に下落傾向へと変わります。デフレマインドが充満している日本では、わずかな値上げも受け入れられないという現実を、まざまざと見せつけられた事例として記憶に鮮明に残っています。とくに当社のように「安さ」を売りにしていた企業にとって、値上げは大きなリスクを伴うことが分かりました。
この価格改定ショックから立ち直る間もなく、2020年には新型コロナウイルスが直撃。飲み会・宴会ニーズに強みを持っていた鳥貴族は、まさに直撃を受けた業態でした。営業時間の短縮、来店客数の激減により、業績は一気に赤字に転落。株価も2020年8月には1,163円と、過去5年で最安値水準を記録します。
しかし、コロナ明けの経済再開とともに客足は戻り、2023年7月期には、2期続いた営業利益の赤字から黒字に転換しています。さらに翌2024年7月期には、過去最高益を更新するという見事な復活を遂げました。
背景には、外食需要の回復はもちろん、撤退したライバル店が増えたことでのチャンス拡大、そして鳥貴族がこだわってきた「国産鶏」「均一価格」があらためて評価されたことなどがあります。株価も、2024年3月に4,950円の上場来高値をつけ、絶好調の極みです。
“焼鳥の会社”からの脱却
じつは、そのタイミングで大きな決断が行われました。
「鳥貴族ホールディングス」から「エターナルホスピタリティグループ」へ、社名の変更です。株式市場でも馴染みのある社名からの変更、しかも“焼鳥屋”とはイメージしづらいカタカナ名には、なんとなくしっくりこないと感じましたが、もちろん社名変更には理由があります。
その理由のひとつが「海外展開」です。日本ではよく知られた焼鳥ですが、海外ではまだまだ“知られていないごちそう”。だからこそ、「焼鳥」という文化そのものを広めるチャンスがあると、会社は考えているのです。
実際に、エターナルホスピタリティグループはアメリカ(ロサンゼルス)、韓国、台湾、香港などに子会社を持ち、現地への出店を進めています。今後はアジアだけでなく、欧米への進出も視野に入れているそうです。焼鳥はヘルシーで、チキンを使っているため宗教的な制約も少なく、世界的に見ても受け入れられやすい料理であることは大きな強みです。
もうひとつの理由が「事業の多角化」です。たとえば価格帯が異なるブランドの開発や、居酒屋以外のスタイルの飲食店の展開など、鳥貴族だけに頼らない会社を目指しています。
同じ鶏料理でも、焼鳥だけでなくから揚げやチキンステーキ、チキンカレーなど、展開できるジャンルは広く、これを「チキンフード」としてグループ全体の強みにつなげようとしているのです。
つまり、社名の変更は「鳥貴族の会社」ではなく、「チキン料理を中心とした、いろんな食の会社」へとステージを変えようとしているわけです。