はじめに
もうすぐ年末。ボーナスを「住宅ローンの繰上返済にあてたほうがいいのかな?」と思っていませんか? 特に変動金利で借りている人は、金利が上がる中、「今のうちに少しでも元本を減らさないと…」と落ち着かない気持ちになっているかもしれません。
一方で、物価高の中、家計のやりくりはシビアになっています。「ボーナスの多くを繰上返済に回してしまって本当に大丈夫なのか」と不安になる人も多いはずです。残念ながら住宅ローンの繰上返済は、「とにかく早く返すのが正解」という単純な話ではないのです。重要なのは、長い目でみた資金の割り振り戦略です。
ボーナスで繰上返済する前に確認したい「3つのチェックポイント」
住宅ローンを繰上返済すると、手元資金が減り、お金は家に変わってしまいます。繰上返済を検討する際は、事前に以下のようなポイントを確認しておきましょう。
チェック1:生活防衛資金の状況
最初に確認したいのは、「いざというときに生活を守るためのお金」が十分あるかどうかです。準備状況は以下の3つのステップで確認できます。
1. 年間支出額を確認。月あたりの平均額を計算する
2. 普通預金や現金など、「すぐに使えるつみたて」の合計額を確認する
3. 以下の計算式で、準備状況を確認する
生活防衛資金は必要な月あたりの生活費を必要な月数分準備します。必要な月数の目安は以下のとおりです。

たとえば、年間支出が600万円なら、月あたりの生活費はおよそ50万円。必要な月数が6か月分の場合、目標額は300万円、といった具合です。
もしまだ目標となる生活防衛資金が確保できていない場合は、繰上返済よりもこちらを確保することを優先しましょう。
チェック2:今後5〜10年の大きな支出への準備状況
次に、「近々迎える大きなイベントに備えるお金」が足りているかを確認します。物価が上がっている今だからこそ、要チェックです。たとえば、こんな支出が考えられます。
・車の修理、買い替え
・自宅のリフォームや大型家電の買い替え
・リタイアなどに伴う連続する生活費の補填
・親の介護で発生するかもしれない費用
必要な支出額がわかったら、必要額の準備状況を確認します。もし不足しそうなら、繰上返済よりもこちらのつみたてを優先します。
もしこういった資金の準備が不十分なのに、ボーナスの多くを繰上返済に回して手元資金を減らしてしまうと、結果的にクレジットカードやカードローンなど、金利の高い借入に頼らざるを得なくなる可能性があります。「高い金利で借りないで済む状態を保つ」ことも、広い意味では“利息を減らす”ことでもあります。予定している大きな支出に備える余力を残せるかどうかも、繰上返済の判断材料にしましょう。
チェック3:将来キャッシュをいちばん大きく増やせる資産はどれ?
チェック1と2で、優先すべきお金がわかったら、残った「ゆとり資金」の使い方として繰上返済を考えます。「ゆとり資金」のふり分け先の主な選択肢は次の3つです。どの資産にふり向ければ、将来自分たちの手元キャッシュがいちばん増えやすいかを考えます。
1.金融資産(運用)に回す
2.住宅ローン残高を減らす(繰上返済)
3.住まいの価値の維持や向上(修繕・リフォーム)に回す
それぞれ、「将来のキャッシュを増やす」という観点で見てみましょう。
1. 金融資産(運用)に回す場合
最近は金利が上がり始めたとはいえ、住宅ローンの金利はカードローンやリボ払いなどのローンと比べると低い水準です。新NISAなどを活用し、長期運用を行う場合、期待リターンが住宅ローン金利を上回る可能性は充分にあります。繰上返済をする場合よりも、老後の手元キャッシュを大きく増やせる可能性があります。
もちろん、投資には値動きによる元本割れリスクがあります。今後のキャリアやライフプランをふまえて、ポートフォリオを考える必要があります。
2. 住宅ローン残高(繰上返済)を減らす場合
繰上返済は、ローン金利分、将来払う利息を確実に減らせるという意味で、「将来のキャッシュアウトを確実に減らす」効果があります。ただし、家には維持費がかかりますから、繰上返済をしたからといって、将来のキャッシュアウトがゼロになるわけではありません。
また、住み替えを考える場合、マイホームそのものが、将来どの程度キャッシュを生み出すかは別問題です。今後、土地価格の上昇があまり見込めないエリアなら、売却は不利となる可能性があります。繰上返済は主に「毎月の返済負担を減らし、家計の月々のキャッシュフローを軽くする」役割を担うことになります。
「将来は働き方をセーブしたい」「転職・独立などで収入が上下しそう」など、ライフプランの理由から返済負担を軽くしておきたいケースでは、繰上返済の優先度が上がります。
3. 住まいの価値の維持や向上(修繕・リフォーム)に回す場合
マイホームは、外壁や屋根、給湯器、水回りなど、必要な修繕をしないと資産価値も居住性も落ちてしまいます。また自然災害などによる修繕・復旧の備えも必要です。住宅ローンを減らすよりも必要な修繕に資金をあてるほうが、結果として将来の大きなキャッシュ流出やトラブルを防ぎ、生活の質を高める効果がある場合もあります。
将来売却する可能性が高いなら、売却価格からローン残高を差し引いて、いくら残るのかがポイントです。売りやすくなるような修繕を優先した方がいいケースもあるでしょう。その場合、ボーナスを繰上返済よりも修繕に回したほうが、トータルの「将来キャッシュ」を守りやすくなります。
また、法改正により家のスタンダードは変化しています。将来の資産価値を高めるリフォームの方が将来のキャッシュを増やせる可能性もあります。