はじめに
史上最大の供給途絶が示すもの
さらに、国際エネルギー機関(IEA)の2026年4月の石油市場レポートでは、中東のエネルギーインフラへの攻撃やホルムズ海峡を通るタンカーの移動制限により、3月の世界の石油供給が前月比で日量1,010万バレル減少し、日量9,700万バレルまで落ち込んだとされています。これは単なる価格変動ではなく、実際の供給量が大きく減ったことを示すデータです。
また、影響は原油だけにとどまりません。IEAは、2025年時点でホルムズ海峡を通過していた原油・石油製品は日量約2,000万バレル(世界の海上石油貿易の約25%)にのぼります。原油・コンデンセートに限っても日量約1,500万バレル、世界の原油海上貿易の約34%を占めており、日本や韓国を含むアジア向けの依存度度も高い状況です。通航が再開されたとしても、保険料、輸送コスト、船舶の滞留、港湾処理能力の回復には時間がかかる可能性があります。
LNG・ガス分野にも広がる影響
加えて、エクソンモービルやシェルが関係する湾岸地域のLNG・ガス関連施設にも影響が出ています。QatarEnergyは2026年3月2日、中東紛争の影響を受け、ラスラファンなどの全LNG施設で生産を停止し、不可抗力条項を宣言しました。これを受けてShellは3月11日、QatarEnergyから購入していたLNGカーゴについて、自社の顧客に対して連鎖的な不可抗力宣言を行っています。 これは、停戦が実現しても、設備点検、損傷確認、再稼働、安全確認、輸出契約の履行再開まで一定の時間を要することを示しています。
エクソンモービルについても、湾岸地域の操業混乱により2026年1〜3月期の世界生産が約6%減少し、その一部は同社が参画するカタールのLNG施設の損傷によるものと報じられています。こうした大手エネルギー企業の生産・操業への影響は、供給網の回復が政治的な合意だけでは完結しないことを示しています。
したがって、米国・イラン・イスラエルの間で緊張緩和が進んだとしても、原油やLNG市場がすぐに平時モードへ戻るとは考えにくい状況です。攻撃を受けた施設の修復、代替輸送ルートの確保、保険料の低下、タンカー運航の正常化、在庫の積み増しなどには時間がかかります。そのため、地政学リスクが一時的に後退しても、資源価格にはしばらく高止まり圧力が残りやすいと考えられます。
「AIの成長期待」と「資源高のコスト圧力」が同居する市場
エネルギー価格が上昇すれば、その影響は燃料費だけにとどまりません。輸送費、製造コスト、肥料価格、食料価格へと波及し、最終的には広範な物価上昇につながります。つまり、現在の市場には「AIによる成長期待」と「資源高によるコスト上昇圧力」が同時に存在していることになります。これは、決して素直なリスクオン相場ではありません。
本来、インフレ圧力が強まれば、金利上昇を通じて成長株には逆風が吹きやすくなります。それでもAI関連に資金が向かうのは、投資家が成長の見えやすい分野を探しているからです。現金はインフレで価値が目減りしやすく、債券も実質リターンが低下しやすい。商品は値動きが激しく、扱いづらい面もあります。そうした中で、中長期の成長ストーリーが明確なAI・半導体関連が、資金の受け皿になっていると考えられます。