はじめに
「頭金を入れずに住宅ローンを借り、手元資金はNISAなどで運用する」。以前に住宅ローンを組んだ方の中には、このような考え方で頭金額を減らし、手元資金として残すことを選んだ人も少なくありませんでした。
それもそのはず。住宅ローン金利が変動金利型で年0.5〜0.6%程度で借りられるなら、住宅ローン減税を受け取ればおつりがきます。さらに運用環境も好調だったため、頭金を減らし運用に回す方が魅力的だったのです。
しかし、最近ではメガバンクの変動金利型金利が平均で1%を超え、地政学リスクをはじめとした世界経済の不透明さが目立ちます。
かつての状況とは大きく変わっており、今となっては、住宅ローンの残高が多ければ多いほど、これから家計が負う不確実性が高まるおそれがあります。これから着手すべきことは何か。生活防衛の視点からポイントを一緒に確認していきましょう。
ケース:35歳Aさんの場合
Aさん(35歳)は5年前、頭金なしで5,000万円を変動金利0.6%で借り入れました。繰り上げ返済に回すはずだった資金はNISA口座で運用し、現在の運用資産は約500万円、含み益は100万円ほどです。
直近の金利見直しで適用金利が1.1%に上昇し、毎月の返済額が当初より1万円以上増えました。「運用を続けるべきか、500万円を取り崩して繰り上げ返済すべきか」Aさんは悩んでいました。
ステップ1:家計の耐久力を確かめる
まず確認したいのは、繰り上げ返済を家計が許容できる状態にあるかどうかです。
運用益が順調に出ているなら、当初の計画には一定の成果があったと言えるでしょう。しかし、だからといって繰り上げ返済に回すことが必ずしもベストであるとは言えません。繰り上げ返済は家計にとって「守り」の策と思われるかもしれませんが、実は手元資金を大きく減らす「攻め」の行動です。ご家庭ごとの注意点や重みは異なります。それらをふまえた上で丁寧に検討する必要があります。
まとまった金額を返済に充てれば、手元資金の流動性が失われ、危機に弱い家計構造となってしまう可能性があります。不動産は容易に換金できませんから、療養や失業、離婚、災害といった、万が一の選択肢を減らすおそれがあります。
また、最近は物価高の流れも見逃せません。住宅ローンの金利上昇も気になるところではありますが、詳しく家計を見てみると、住宅ローンの返済額よりも食費や光熱費といった生活費の方が大きく増えているというご家庭は少なくないでしょう。家計の余力が気づかないうちに削られている可能性があります。
これからの物価高を乗り越え、生活を守るためには、繰り上げ返済に充てる前には、あらためて家計への影響を確認しておく必要があります。
繰り上げ返済に回しても、生活防衛資金が生活費の6か月〜1年分確保できるか。教育費や住宅修繕など5年以内の出費に備えられているか。夫婦どちらかの収入が一時的に途絶えても生活を維持できるか。
こういった点をクリアにしてから、次のステップに進むようにしましょう。
ステップ2:住宅と老後、どちらが優先か
家計の耐久力が確認できたら、次に考えたいのは、ご自身にとっての優先順位です。「老後の生活資金」と「住宅」の二つの価値を天秤にかけてみてください。あなたにとって、どちらの優先順位が高いでしょうか?
もし住宅の方が優先順位が高いと考えるなら、繰り上げ返済よりも、将来の維持修繕費に資金を振り向ける方が人生設計に沿っているかもしれません。築20〜30年を経過すると大きな修繕も必要になり、数百万円規模の費用が見込まれます。もし自然災害などに被災すれば、生活再建のために自宅の修繕は不可欠となるでしょう。
老後の生活資金を優先したい方は、繰り上げ返済に動く前に、まずご自身の老後資金計画の進捗を見直してみてください。物価高や今後の金利上昇をふまえると、これまでの想定では足りなくなる可能性もあります。進捗が思わしくないなら、繰り上げ返済よりも、家計や積み立て計画そのものを見直す方が優先度は高いと言えるでしょう。