はじめに
「近隣の家賃相場が上がったため、次の更新から家賃を値上げします」。
ある日突然、ポストに届いた大家さんや管理会社からの通知。「値上げに応じなければならないの?」「応じたくないけど、拒否したら追い出される?」——そんな不安が頭をよぎった方も多いのではないでしょうか。
いま、都市圏を中心に、こうした家賃の値上げ打診をされる人が急増しています。「私は地方だから関係ない」「うちは古いアパートだから大丈夫」と思っている方も、決して人ごとではありません。地方にお住まいの方や、まだ通知を受け取っていない方にとっても、いつか来るかもしれない日のための、知っておくべき経済トレンドです。
ただし、ひとつ重要な前提があります。この記事でお伝えする内容は、「普通借家契約」を締結している方を対象としています。都市部を中心に近年増えている「定期借家契約」は今回の対象ではありません。
では契約書のタイトルが「普通賃貸借契約」、つまり「普通借家契約」の場合にはどう対応したら良いのでしょうか?
今回は宅建士でもあり、不動産オーナーでもあるプロが、家賃値上げを打診されたときに慌てないための「法的権利」と、トラブルを防ぎながら冷静に着地点を見つける「具体的な5つのステップ」を解説します。
なぜ今、値上げ打診が増えているのか
「なぜいまこれほど、家賃値上げの打診が増えているのか」——背景を知ると、大家さん側の事情が見えてきます。
最大の要因は、不動産価格の高騰です。都市部を中心に新築・中古ともに購入価格が大幅に上昇したことで、「買うより賃貸のまま」と判断する世帯が増えました。需要が高まれば、家賃も自然と引き上がります。
加えて、物件の維持管理コストの上昇も見逃せません。共用部の電気代、修繕費、管理費——「物件を維持するためのコスト」が軒並み上がっています。さらには土地・建物の評価額の上昇に伴い、固定資産税などの税負担が増えているエリアも少なくありません。
つまり、「コストが上がったから値上げをお願いせざるを得ない」という大家さんも多いのが実情です。だからといって、借主が無条件に応じる義務はありません。次に、その法的根拠を確認しておきましょう。
あなたの契約は普通借家?それとも定期借家?
冒頭でもお伝えした通り、定期借家契約の場合はこの後の内容に当てはまりません。
普通借家契約には、期間満了後も、契約が自動継続される「更新」という仕組みがあります。一方、定期借家にはこの更新がなく、期間満了時に必ず契約が終了します。住み続けるには「再契約」が必要で、新賃料の折り合いがつかなければ退去しなければならないのです。
この記事は、更新の仕組みがある普通借家契約の方に向けた内容です。契約書のタイトルが「普通賃貸借契約」と記載されている方には、法律という強力な盾があります。
その盾とは、貸主・借主の双方に「賃料の増減を請求する権利」を認めた法律(借地借家法第32条)です。ここで重要なのは、双方の合意が必要だという点。つまり、大家さんが「今後値上げする」と通知してきても、合意なしに貸主の一存で決まるわけではないのです。
では、そもそも大家さんが値上げを求められるのはどんな場合か。法律上、以下の3つの要件のいずれかに該当する場合、値上げ請求の根拠となります。
公租公課の増減:固定資産税などの税負担が増えた場合
経済事情の変動:物価上昇など、経済情勢が変化した場合
周辺相場との乖離:近隣の同条件の物件と比べて家賃が不相当になった場合
逆に言えば、これらの要件に乏しい値上げ請求は、法的な根拠が弱いということになります。通知が届いても、慌てて判を押す必要はありません。借主の立場から納得できる内容なのかをチェックしましょう。