はじめに
「住宅ローンは35年。フルで組めるのは40代が最後。だから今買っておかないと、買えなくなるのでは」。建築価格や人件費の上昇で家の値段が上がっている今、住宅ローンの期限から逆算して購入を急ぐ方は、決して少なくありません。不動産会社や銀行で、こうした話を耳にされた方も多いでしょう。
しかし、この「40代ラストチャンス論」は、半分正しく、半分は危険だと筆者は考えています。フィーベースのファイナンシャルアドバイザーとして、金融商品も住宅も一切売らない立場で数多くのご相談をお受けしてきましたが、その経験から正直に申し上げると、この言葉を鵜呑みにして急いで決断されるのは、あまりおすすめできません。
家の購入で本当に向き合うべきは、「買えるかどうか」ではないはずです。人生全体から見て、その選択が適切かどうか。焦って動く前に、まずはご自身の状況を整理することから始めましょう。
「40代がラストチャンス」は、半分正しい
まず、この言葉が完全な煽りかというと、そうではありません。理屈としては、筋が通っています。住宅ローンの多くは最長35年です。完済時年齢の上限を80歳前後とする金融機関が多く、35年フルで組もうとすると、逆算して45歳前後が一つの区切りになります。さらに団体信用生命保険(団信)には健康状態の審査があり、年齢が上がるほど持病を抱えるリスクが高まり、加入しづらくなる特約も出てきます。
加えて子育て世帯では、教育費のピークを迎える前に大きな買い物を済ませておきたい、というお気持ちが働くのも自然なことでしょう。こうして見ると、「40代がラストチャンス」という言葉には、それなりの根拠があるといえます。
「借りられるか」と「その後も暮らせるか」は、別の話
ただ、注意したいのは、理屈として筋が通っていることと、「だからすぐ買うべき」という結論がご自身にもあてはまるかどうかは、別問題だという点です。
不動産会社も銀行も、家が売れ、ローンが組まれて初めて利益が生まれます。そのため、住宅購入を検討する場面では、「今が最後」という言葉が、大きな決断を後押しする材料として使われることがあります。そのうえ期限のしくみは明快なので、聞いた側も「なるほど、理解できた」と感じやすいのではないでしょうか。
しかし、人生という広い視点で見れば、住宅ローン契約はパズルのピースの一つにすぎません。「どんな絵を完成させたいのか」を描けないまま、一つのピースの入れ方だけが正しいからといって決断してしまうと、他のピースが埋まっていったずっと後になって、後悔する可能性があります。
40代で35年ローンを組めば、完済は早くて70代半ばです。多くの方がリタイアし、年金を中心とした暮らしを望まれる時期に、返済が続く計算です。返済が重すぎる設計になっていると、定年後の働き方、医療や介護、家族や友人との付き合いといった晩年の選択肢を、大きく狭めてしまう可能性があります。実際、「家を勢いで買ったが、これからの生活が不安」というお声もあります。
もちろん、これは「買ってはいけない」という話ではありません。返済設計に無理がなければ、住宅ローンは暮らしを支える力にもなります。大切なのは、その設計を、漠然とした不安のまま進めるのではなく、具体的な根拠をもって進められているかどうかです。