はじめに

相場が不安定なときほど、「投資を始めるのは待った方がいい」と考えがちです。しかし、長期の資産形成で重要なのは短期の値動きを当てることではありません。本稿では「72の法則」を起点に、10年後の目標から必要利回りとリスクを逆算し、米国株、債券、金、為替、NISA、入金力まで含めた資産形成の考え方を整理します。


72の法則で逆算する目標利回りとリスク

株価が大きく動き、為替も金利も地政学情勢も先を読みづらい状況が続くと、「今は投資を始めない方がいいのでは」「もう少し相場が落ち着いてから」と考えたくなる方も多いと思います。ただ、長期の資産形成で本当に重要なのは、来月の株価を当てることではありません。10年後、20年後から逆算して、どの程度のリターンが必要なのか、そのためにどこまでリスクを取る必要があるのかを考えることです。

そこで、資産形成の出発点として知っておきたいのが「72の法則」です。これは、資産が何年でおおよそ2倍になるかを簡単に計算するための目安で、「72 ÷ 年利」で、おおよその倍増年数がわかります。たとえば年利7%で運用できれば、72÷7=約10.3年です。年利8%なら約9年、年利5%なら約14.4年、年利3%なら24年です。

この法則の大事なところは、「年7%なら約10年で2倍になる」と期待することではありません。むしろ、「10年で資産を倍にしたいなら、年7%前後の複利リターンが必要になる。そのリターンを得るためには、どの程度のリスクを引き受ける必要があるのか」を考えるための物差しとして使うことに意味があります。

72の法則は、目標とリスクをつなぐための計算式です。資産形成では、元本の大きさだけでなく、利回りと時間の掛け算が結果を左右するため、積立投資はできるだけ早く始めた方が有利だと言われます。

年利が高くなればなるほど、一般的には価格変動リスクも高くなりやすくなります。10年で資産を倍にしたいからといって、年10%、15%を狙うようになると、途中で大きな損失を抱える可能性も高くなります。長期投資で最も避けたいのは、相場が下がることそのものではなく、途中で続けられなくなることです。

現金100%にもある購買力低下のリスク

ここで考えておきたいのが、現金の位置づけです。現金には価格変動がほとんどありません。そのため、株式などと比べると「安全資産」と感じやすいと思います。ただ、資産形成では、額面が減らないことと、価値が減らないことは別です。

物価が上昇すれば、預金残高が100万円のままでも、その100万円で買えるモノやサービスは減っていきます。つまり、現金100%という資産配分も、「何もしていない状態」ではありません。円の購買力に大きく依存しているポジションだと考えることができます。

現金の目減りは、株価下落のように毎日画面に表示されません。通帳の数字も減りません。そのため気付きにくいのですが、インフレが続く局面では、現金だけを持つことにもリスクがあります。

高金利時代と現在で変わった資産形成の前提

昔は、現在とはまったく違う金利環境でした。日本でも1980年代前半には金利水準が非常に高く、米国でも政策金利が2桁となる局面がありました。

当時は、預金や債券など比較的リスクの低い資産でも高い利回りを得やすく、大きなリスクを取らなくても時間そのものを味方につけやすい時代でした。

一方、現在は金利が戻ってきてはいるものの、日本の預金だけで年7%を継続的に確保することは現実的ではありません。だからこそ、今の個人投資家は、「お金をどこに置いておくか」を自分で考える必要があります。

低金利時代に資産形成の主役になったのが株式です。特にこの十数年間、米国株への長期投資は非常に強力でした。S&P500を中心に積み立て、短期的な下落でも売却せず保有を続けた投資家は、大きな恩恵を受けてきました。

そこには、米国企業の利益成長だけでなく、巨大テック企業の成長、株主還元、イノベーション、グローバル化、そして低金利によるバリュエーション上昇という複数の追い風がありました。

「S&P500を買って長く持てばよい」という考え方が広がったのも理解できます。

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