はじめに
・最新の世界資産調査においてこの5年で中間層の資産が最も増えた国は日本と判明
・円安の中でも日本の中央値は約13.6万ドルで世界10位と一億総中流の強さを維持
・株高や住宅価格上昇の波に乗り「市場に居続けた人」が実際に報われた5年間だった
日本経済をめぐるニュースは、もう長いこと停滞と転落の言葉であふれています。GDPはドイツに続き、年内にはインドにも抜かれて世界5位に後退する見通しです。実質賃金は伸び悩み、値上がりの話題も続いています。
そんな中、NISAやiDeCoなどでコツコツと積立投資を続けている方に朗報です。世界最大級のプライベートバンクUBSが2026年6月末に公表した「グローバル・ウェルス・レポート2026」(56市場・2025年末の推計)によれば、この5年、中間層の資産が最も増えた国は日本だったのです。
世界の中間層の資産が沈むなか、日本だけ5割増えていた
UBSレポートが注目するのは、資産の「中央値」です。国民全員を資産額の順に並べたとき、ちょうど真ん中に立つ人の金額のこと。たとえば住民10人の村に大富豪が1人引っ越してくれば村の「平均」は跳ね上がりますが、9人の暮らしは変わりません。このとき動かないのが中央値で、だからこそ、その国で暮らす多くの人の実感に近い物差しと言われます。本記事で「中間層」と呼ぶのは、所得ではなく、この資産額で見て真ん中あたりに位置する世帯のことです。
さて本題ですが、2020年以降、UBSレポートにて調査された主要56市場中、この中央値が最も伸びた国が日本でした。伸び率は50%超で調査対象中の1位。2位のUAE(40%超)を大きく引き離しています。しかも調査対象の半数以上の国・地域では、この間の中央値はむしろマイナスだったのです。資産が1割以上目減りした国も20市場にのぼります。
つまり、世界の中間層の資産が減るなかで、日本だけが突出して増えたのです。なお、この伸び率は物価の影響を除いた実質ベースの数字で、為替の影響も入っていません。「この5年で1ドル100円台から150円台まで円安が進んだのに、日本の資産が増えたなんておかしい」と思われるかもしれませんが、各国の自国通貨建てですから、国内で暮らす私たちの実感に近い比較といえます。この伸び率の背景は、次の見出しで見ていきましょう。
伸び率に続いて、資産の額で世界の中の日本の立ち位置を見てみます。これから見る金額と順位は米ドル建て。つまり円安のハンデをまるごと背負った数字です。それでも——日本の中央値は約13.6万ドルで世界10位。米国は約6.9万ドルの28位ですから、日本はその約2倍です。平均で見ると、日本は約21万ドルで世界24位。首位スイスは日本の約4.3倍ともなります。平均では大きく水をあけられていても、中央値では10位。かつて「一億総中流」と言われた日本の姿が、資産の面ではいまも健在であることを裏付ける結果です。
増えた理由は、株高と住宅価格、そしてNISA・iDeCo
この5年間で日本に住む私たちの資産を50%以上も押し上げたのは、まぎれもなく資産価格です。日経平均はこの5年で約2倍になり、住宅価格も上がりました。つまり、株式・投資信託・持ち家を保有していた世帯の評価額が膨らんだ、というのが実態です(住宅価格については、次の見出しで詳しく見ていきます)。その反面、現金だけで持っていた世帯はこの波に乗れず、5年で12%程度の物価上昇により、実質的にその分の資産が目減りしたことになります。
では、なぜ日本では多くの世帯がこの波に乗れたのか。ここからは私の推測になりますが、NISAやiDeCoといった税制優遇制度の浸透が大きかったのではないかと考えています。NISA口座は2020年末の1,523万口座から2025年末には2,821万口座へとほぼ倍増し、累計買付額は21.4兆円から71兆円へと約3.3倍になりました。iDeCoも規模こそNISAに及ばないものの、加入者は2020年3月の約156万人から2025年3月の約362万人へと、この5年余りで約2.3倍に増えています。
日本銀行の資金循環統計でも、家計の金融資産は2,351兆円と過去最高を更新し、現預金の比率は18年ぶりに50%を割り込みました。「貯蓄から投資へ」という掛け声が、ようやく統計にはっきり表れた5年間だったといえます。
もちろんこの間、相場の急落は何度もありました。それでも売らずに積み立てを続けた人が、その後の上昇を丸ごと取り込んだことになります。市場に参加し続けた人が報われた5年だったのです。
「儲かったのはお金持ちだけでは?」——数字は逆を示している
ここで疑問がわきます。東京の新築マンションは平均1億円を超えたと報じられ、多くの人には手が届かない値段となってしまいました。したがって、資産を膨らませたのは高額物件を買えるお金持ちだけではないのか、と。
その答えは、否。さきほど住民10人の村に大富豪が1人引っ越してくる例を挙げましたが、一部の富裕層だけが潤ったのなら、動くのは「平均」であって「中央値」ではありません。UBSレポートで動いたのは中央値のほうでした。つまり、値上がりの恩恵は分布の真ん中にまで届いていたのです。
では、なぜ届いたのか。株式・投資信託を持っていない世帯にも効いたのが、持ち家です。国土交通省の不動産価格指数によると、2020年1月を100として戸建住宅は119.6、マンションに至っては148.6(いずれも2025年12月)まで上がっています。日本の持ち家比率は約6割ですから、何年も前に取得した自宅の評価額が上がったことで、特別な投資をしていない世帯でも資産が膨らみました。1億円超えのニュースは、いま買う人の悲鳴であると同時に、すでに持っている人の含み益の裏返しなのです。
ただしUBSレポートは「持ち家の値上がりは、売らない限り使えるお金を増やさない」とも釘を刺しています。含み益は、たしかに資産ではあるけれど、そのままでは生活を助けてはくれません。だからこそ、自宅とは別に、必要なときに取り崩せる金融資産を自分で育てておくことに意味があります。