はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は深野康彦氏がお答えします。
現在61歳、持ち家で妻と二人暮らしです。子供2人はそれぞれ結婚独立しています。今年の春、会社を退職する予定です。65歳以降は厚生年金、企業年金等で年600万円程度の収入はあるため、それ以外の金融資産については、ある程度のリスクは取りつつ、3%程度で回していければと考えています。妻名義の一時払い終身、個人年金原資が4,000万円程度ありますが、それ以外の流動性資産は5,000万円程度です。
リタイアが近いこと、国内株が2万円の大台にも乗っていることから、安全資産の割合を増やしたいと思っています。最近、株の一部を売却し定期預金を増やしていますが、あまりにも利率が低いので債券投資を考えています。とはいえ、世界情勢や新興国債券は安全性の観点から海外債権の選び方にも悩んでいます。現時点でのおおまかなポートフォリオは、預金1,600万円、国内株1,400万円、海外株1,000万円、国内債300万円、海外債450万円、REIT250万円といった感じです。全体のポートフォリオを含めてアドバイスお願いします。
(60代以降 既婚・子供2人 男性)
深野: 春に会社を退職予定と記載されているため、少し早いですが長い間お勤め本当にお疲れさまでした。自由になる時間がたくさんありますから、セカンドライフを楽しんでいただきたいと思います。
年金受給までの期間はどうする?
では、質問の回答へ移らさせていただきますが、春に退職となるものの退職時の年齢は62歳(61歳)であることから、65歳までは部分年金を受け取ることができるはずです。忘れずに裁定請求の手続きを行われてください。
65歳以降の収入は記載されていますが、退職から65歳までの3年間は働かれるのでしょうか、それとも完全リタイアとなるのでしょうか。この3年間の収入の得方によって、資産運用の方法は大幅に変わってくると考えてください。
年間の支出額が記載されていないことから、推測の部分が入りますが、仮に働かないのであればかなりの金額を保有資産から取り崩す必要があると思われます。
厚生年金、企業年金等で65歳以降は年600万円程度の収入が得られると記載されているので、現役時代の収入も高めであることから、年間の生活費等の支出額も相応の金額なのではないでしょうか。
とすれば、働かなかった場合の取崩額は、3年間の合計で1,000万円近くになるかもしれません。
個人年金の原資が4,000万円程度あると記載されているため、仮に退職と同時に個人年金を受け取られるならば、取崩額は予測より少なくなるものの、リタイア後の3年間は急激に金融資産が減少すると考えられます。
もしそうであれば、リスクをかなり抑えた資産運用を心がけるべきでしょう。仮に65歳まで働かれるのであれば、金融資産を取り崩すとしてもその速度は緩慢だと考えられることから、働かない時よりもリスクを取った資産運用を行うことができるでしょう。
リスク性資産は「100-年齢」が目安
ご質問には3%程度で運用していきたいと記載されていますが、3%という収益率はどのような根拠から考えられたのか定かではありません。
セカンドライフの過ごし方を前提とした収益率と思われますが、世界的に低金利が蔓延していることから、3%の収益率で運用し続けるのも大変なことと言わざるを得ません。
現在のようなポートフォリオであれば3%の収益を確保することもできるでしょうが、退職されることを考えれば、現役時代のように積極的な運用を行うわけにはいきません。
これまでの経験があるとはいえ、国内株、海外株、海外債券、REITというリスク資産の割合を徐々に減らしていくべきでしょう。大まかな目安としては「100-年齢」が挙げられます。
ご質問者の場合は61歳であることから、リスク性資産は資産全体の39%。これまでの資産運用の経験等を考慮しても、45%程度までに留めるべきだと思われます。
リスク性資産の割合を減らし、預金や国内債券などの割合を増やしていくことになりますが、ご質問にあるように国内を問わず債券の金利は低金利です。
海外債券に関しても、ご心配されているようなさまざまなリスクがあります。複数のリスクは取らずとも、ひとつくらいはリスクを取らなければ、相応の収益を得ることは難しいと考えてください。
例えば、新興国債券には信用リスクがありますが、利率が低くなるものの現地通貨建てではなく、米ドル建てのものを購入。さらにリスクを抑えるために為替ヘッジをかけることで、結果として現地通貨建ての為替ヘッジありタイプよりも抑えた信用リスクだけを取ることになります。
個別の債券投資では難しいですが、投資信託を活用することでリスクを抑えた債券投資を行うことは可能と考えられます。そのほか、投資する債券を新興国債券、先進国債券、先進国債券のなかでも国債などの公共債と社債、ハイ・イールド債など、さまざまな債券に分散させるとよいと思われます。
失礼にあたるかもしれませんが、資産運用を考えるのも大切ですが、セカンドライフで最も大切なことは、どんな風に過ごすのかというライフプランです。ライフプランが明確になればなるほど、資産運用という取るべき手段が決まると思われてください。
退職まであと少し、その間にセカンドライフの過ごし方を奥様とじっくりご相談されてください。
すでにしっかりしたライフプランが描けているのであれば、筆者の杞憂だと受け流していただければ幸いです。