はじめに

医療保険を見る前に確認したい「3つのお金」

ここまで見てきたように、高額療養費制度の改正による影響は、所得区分や治療期間によって異なります。改正による差額が分かっただけでは、医療保険を増やすべきかどうかは判断できません。医療費の負担に備えるためには、民間保険以外にもさまざまな手段があります。次の「3つのお金」から、病気が家計に与える影響を整理してみましょう。

1. 家計から出ていくお金

病気やけがで治療を受ける際に家計から出ていくお金には、大きく分けて次の3つがあります。

・医療費: 治療費(自己負担分)、薬代
・医療費以外の支出: 差額ベッド代、入院中の食事代、通院交通費、日用品代など
・収入の減少: 療養による休職や残業削減に伴う収入減

高額療養費制度でカバーできるのは「公的保険が適用される医療費の自己負担」のみです。差額ベッド代や食事代などの雑費、また働けなくなったことによる収入減は対象外となります。まずは「医療費以外でいくら出ていく可能性があるのか」を把握しておく必要があります。

2. 公的保障や勤務先から受け取れるお金

治療や休業によってお金が出ていく一方で、公的制度や、加入する健康保険、勤務先から受け取れるお金もあります。

・傷病手当金:会社員など健康保険の被保険者は、業務外の病気やけがで働けず、連続する3日間の待期を経て4日目以降も休んだ場合、一定の要件を満たせば傷病手当金を受け取れます。支給額は、支給開始前の標準報酬月額をもとに計算した日額のおおむね3分の2で、支給期間は同じ傷病について通算1年6か月です。

・付加給付:健康保険組合や共済組合によっては、高額療養費に上乗せして独自の付加給付を設け、自己負担をさらに軽減している場合があります。 給付の有無や基準、手続きは加入先によって異なるため、健康保険組合などのウェブサイトで確認しましょう。

3. 急な負担に対応できる預貯金

最後に、医療費や収入減に充てられる預貯金を確認します。預貯金は、医療費だけでなく、収入減や通院交通費などにも柔軟に使える点がメリットです。

ただし、預金残高のすべてを医療費に使えるわけではありません。当面の生活費や近い将来に必要なお金を残したうえで、急な負担にいくらまで対応できるかを考えましょう。

3つのお金を整理して判断する

医療費への備えは、次の順番で整理すると分かりやすくなります。

家計から出ていくお金-公的保障や加入先・ 勤務先から受け取れるお金=わが家が負担するお金

その負担を預貯金で吸収できるのか、それとも民間保険で補う必要があるのかを考えます。高額療養費の上限だけで判断するのではなく、出ていくお金、受け取れるお金、手元の預貯金を合わせて確認することが、わが家に合った医療保障を考える第一歩です。

その保障、本当に増やす必要がある? 家計から考える判断基準

「3つのお金」を整理したら、今の医療保険をどうするかを考えます。判断のポイントは、改正による負担増を、公的保障や加入先の給付、預貯金でどこまで吸収できるかです。

保障を「増やす必要性が低いケース」

・付加給付のある健康保険組合に加入している
付加給付によって自己負担が低く抑えられる環境であれば、今回の高額療養費制度の改正による影響は限定的なため、焦って保険を追加する必要はありません。

・医療費や生活費を補える預貯金が十分にある
改正によって増える負担や医療費以外の支出を預貯金で無理なく補える家庭も、焦って保障を増やす必要性はありません。たとえば、単月の負担が5,000円程度増えるケースに備えるために新しい特約を付けて毎月の保険料を払い続けると、長期的には支払う保険料の方が大きくなる可能性もあります。預貯金が十分であれば、必要以上の保険は解約するという選択肢もあるでしょう。

保障を「増やす必要性が高いケース」

・貯蓄がまだ十分でない世帯
貯蓄が少なく、急な医療費や収入減によって家計がすぐに赤字になる家庭では、現在の保障を維持する意味が大きくなります。住宅購入や出産の直後、教育費の負担が大きい時期などは、預貯金があっても使い道が決まっている場合があります。医療費を払えるかだけでなく、その後の生活や近い将来の予定に影響が出ないかまで確認する必要があります。

・自営業・フリーランス
自営業者やフリーランスが加入する国民健康保険には、会社員の健康保険のような傷病手当金や付加給付が原則としてありません。病気やけがで働けなくなった場合、医療費だけでなく収入減の影響も受けやすいため、預貯金や民間保険による備えの重要性は相対的に高くなります。

増やす・維持する・減らすの3つから考える

医療保険の見直しは、「増やす」か「解約する」かの二択ではありません。今の保障で家計への影響を補えるなら、そのまま維持する選択があります。保障が重複している場合は、契約全体を解約せず、不要な特約を外したり、保障額を減らしたりする方法も考えられます。

ただし、健康状態が変わった後では、同じ条件で医療保険に入り直せないことがあります。保障を減らしたり解約したりするときも、保険料の安さだけで判断しないことが大切です。

保険を追加すれば安心は増えますが、保険料という固定費も確実に増えます。今回の改正で増える可能性がある負担と、今後払い続ける保険料を比べ、わが家にとって本当に必要な保障かを考えましょう。

「負担増」の言葉だけで決めない

今回の改正による影響は、所得区分や治療期間、付加給付の有無によって異なります。「負担増」という言葉だけで、すべての家庭が保障を増やす必要はありません。

私自身、病気を経験したときには医療保険に助けられました。一方、命に関わる病気を経験したからこそ、万が一への備えだけでなく、家族との時間や経験など「今」の楽しみに使うお金も大切だと感じています。

医療保険の保険料を増やせば、その分、今の生活や教育費、将来のための貯蓄などに使えるお金は減ります。だからこそ、不安の大きさだけで保障を増減するのではなく、公的保障や勤務先の制度、預貯金を確認したうえで判断することが大切です。

医療費への備えを保険だけで考えず、ライフプラン全体の中で位置づけること。今の暮らしと将来の安心の両方を見ながら、わが家に合った医療保障を選んでいきましょう。

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