はじめに

親の介護、そして自分の老後

60代になると、多くの人にとって親が80代後半から90代にさしかかる時期です。厚生労働省のデータによると、要介護(要支援)認定を受ける人の割合は80~84歳で26.7%、85歳以上では60.2%にのぼります。「まだ元気だから」と思っていても、介護が必要になるタイミングは案外突然訪れるものです。

公益財団法人生命保険文化センターの調査によれば、介護にかかる一時的な費用は平均47.2万円、月々の費用は平均9.0万円、介護を行った期間は平均55.0カ月(4年7カ月)にのぼります。単純計算で、介護1件あたり総額500万円を超えることも珍しくありません。

意識したいのが、「親の介護にお金を使いすぎない」という視点です。独身の60代は、兄弟姉妹がいたとしても自分が介護の担い手・費用負担者になりやすい立場にあります。しかし、親の介護費用を自分の老後資金から際限なく持ち出してしまうと、今度は自分自身の老後や介護が立ち行かなくなってしまいます。

介護保険や公的な支援制度を最大限活用し、「親の介護は親のお金で」を基本にしながら、自分の資産は自分の将来のために残しておくことが大切です。

厚生年金に加入して働き続けることのメリットも意外と大きいです。65歳以上70歳未満で厚生年金に加入して働く場合、毎年10月に「在職定時改定」によって年金額が見直されます。例えば月収30万円で1年間働くと、年金額は年間で約1万9600円増える計算です。わずかな金額に見えても、それが生涯にわたって上乗せされ続けると考えると、決して小さくありません。自分の時間を使って厚生年金に加入し続けることは、自分自身の老齢年金を底上げする、有効な備えのひとつです。

また、働き続けることは健康の維持・増進につながり、認知機能などの健康指標によい影響を与えるとの報告もあります。心身の元気を保つ備えとしても、社会とのつながりを持ち続けることが大切です。

2026年、知っておきたい制度と「介護・福祉の情報」「人とのつながり」

60代の働き方を考えるうえで押さえておきたいのが、高年齢者雇用安定法です。2021年4月1日からは、企業に対して70歳までの就業機会確保が「努力義務」となりました。

さらに、2026年4月からは国の新たな「高年齢者等職業安定対策基本方針」が適用され、2029年までに企業の実施率を40%以上に引き上げる目標が掲げられています。定年の70歳への引き上げや継続雇用制度の導入だけでなく、業務委託契約への切り替えや社会貢献活動への従事といった、雇用によらない多様な選択肢も広がっています。「会社に雇われ続ける」以外の形で社会と関わり続ける道が、これまで以上に選びやすくなっているのです。

そしてもうひとつ、老後の暮らしを支えるうえで欠かせないのが「介護・福祉の情報」です。親の介護であれ、将来の自分の介護であれ、いざというときに頼りになるのが、市区町村ごとに設置されている「地域包括支援センター」です。介護保険の申請方法から、利用できるサービス、生活上の困りごとの相談まで、無料で対応してくれる公的な窓口です。早めに存在を知り、気軽に相談できる関係を作っておくと、いざというときの安心感が違います。

忘れてはならないのが、お金だけでは老後は支えきれないという事実です。近所付き合いや友人関係、趣味の仲間とのつながりは、介護や福祉の情報が自然と集まってくる貴重な「資産」でもあります。60代のうちから人付き合いを大切にしておくことは、将来、自分や親が困ったときに助け合える関係づくりにも直結します。お金の備えと同じくらい、人とのつながりを育てておくことを意識してみてください。

60代独身男性が今から始めるべき3つの備え

都内で暮らす60代独身男性の経済状況をまとめると、収入面では働き方の変化により減少に転じる一方で、親の介護と自分自身の老後という、二つの「老後」が同時に現実味を帯びてくる年代だとわかります。

60代のうちに意識しておきたいことは、大きく3つです。


1.収入が変化する時期だからこそ、生活費の固定費を早めに見直す
2.親の介護にお金を使いすぎず、厚生年金に加入して働くことで自分の老齢年金を増やす
3.地域包括支援センターなどの介護・福祉の情報と、日頃の人付き合いを大切にしておく


これらを実践しておくことで、この先どのような形で介護や暮らしの変化が訪れても、お金の面でも、心の面でも、慌てずに向き合えるのではないでしょうか。ぜひこの機会に、ご自身の家計と、これからの人とのつながり方を一度見つめ直してみてください。

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