はじめに

9月に入り、ドル円相場は1ドル160円近辺から一時152円台まで急速に円高・ドル安が進みました。背景には、日銀の追加利上げ観測や米国の円安是正姿勢、GPIFを巡る資金シフト観測があります。FOMCと日銀会合を控え、日米金利差と円キャリートレードの前提がどう変わるのかを見ていきます。


円高・ドル安を促す複数の材料

ドル円相場が、9月に入り急速に円高・ドル安へと振れています。9月1日は1ドル160円近辺で、8日の取引時間中には一時152円台まで円が買われたので、わずか1週間で約7円動いたことになります。ドル円のみならず、他の通貨でも円高となっています。

この動きを「一時的な調整」と見るか、「トレンド転換の始まり」と見るか。足元の円高は、単一の材料で説明できるものではありません。日銀の追加利上げ観測、米国からの円安是正への圧力、そしてGPIFを巡る資金シフト観測が重なり、積み上がっていた円売りポジションの巻き戻しが加速しているのが実情です。特に重要なのは、日米金利差がある限り、円を売ればよいという市場の前提が、今まさに揺らぎ始めている点です。

米財務省の円安是正姿勢と日米金利差

まず市場が敏感に反応したのが、ベッセント米財務長官の円安に対する姿勢の変化です。米財務省によると、ベッセント長官は8月30日に植田和男日銀総裁と会談し、「円の大幅な過小評価(substantial undervaluation)」に言及しました。その上で、円安が日本のインフレ圧力につながっている点を指摘し、日本による為替市場や金融政策面での「断固とした対応」を強く支持しました。これは市場にとって、極めて重要なメッセージです。

為替介入だけで円安を止めるのではなく、「日銀の金融政策正常化によって金利差そのものを縮小させること」について、米国側も一定の理解を示していると受け取れるためです。

これまでドル円では、「日本当局が円安をけん制しても、日米金利差が大きい以上、いずれ円売りに戻る」という見方が根強くありました。しかし今回、米財務省までが円の割安感に言及したことで、「160円を超えるような円安を、米国も必ずしも歓迎していない」という認識が広がりました。円売りポジションを抱えていた投資家にとって、これは無視しにくい変化です。

高田委員発言で揺らぐ利上げペースの前提

もう一つ大きかったのが、9月2日の高田創日銀審議委員の発言です。高田委員は「機動的な利上げが必要な新たな局面」に入ったとの認識を示し、市場が想定している利上げの「間隔や幅」に必ずしもとらわれず、金融環境を確認しながら機動的に対応する必要があると述べました。

ここで重要なのは、単に「追加利上げがあり得る」と言ったことではありません。これまで市場では、日銀が利上げするとしても「十分な時間を空けながら0.25%ずつ慎重に進める」との見方が強くありました。高田委員の発言は、この暗黙の前提に一石を投じるものでした。

もちろん高田委員は日銀内でも比較的タカ派とみられており、この発言だけで日銀全体の政策スタンスが変わったと判断するのは早計です。ただ、植田総裁自身も9月の金融政策決定会合で経済・物価の上振れリスクを点検するとしており、9月利上げの可能性を排除していません。「日本の金利はほとんど上がらない」と考えてきた投資家のポジションが修正され始めたことが、足元の円高を加速させています。

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