はじめに
ソフトウェア受注で捉える企業のデジタル投資

投資家として注目したい変更の一つが、ソフトウェア投資の扱いです。従来の参考指標では、法人企業統計の無形固定資産に関するソフトウェア投資のデータが採用されていました。新CIでは、これに代えて「実質受注ソフトウェア」を使います。現在、企業の設備投資は、工場や機械の導入だけではありません。基幹システムの刷新やクラウドサービスの導入、サイバーセキュリティ対策、AIを活用した業務効率化など、デジタル分野への投資も重要になっています。
例えば、人手不足に悩む企業が業務システムを導入すれば、従業員の負担軽減や生産性の向上につながる可能性があります。製造業でも、工場の自動化や生産管理の高度化など、ソフトウェアを活用する場面が増えています。こうした投資は、企業の競争力や収益力を左右するだけでなく、ITサービス企業やシステム開発企業の受注にも影響します。
今回の見直しでは、ソフトウェア受注の動きを景気判断に取り入れることで、企業のデジタル投資を捉えやすくしようとしています。そうはいっても、ソフトウェア受注と、企業が実際に支出したソフトウェア投資額は同じではありません。また、すべてのクラウド利用料やAI関連投資が、この指標に含まれるわけではありません。IT関連株を分析する際には、マクロ指標としてのソフトウェア受注に加え、個別企業の受注残高や売上高、利益率なども確認したいところです。
「実質サービス輸出」からインバウンドを除く理由
もう一つの変更が、サービス輸出の扱いです。新CIでは「実質サービス輸出」からインバウンド部分を除いた指標を採用します。国際収支統計では、訪日外国人が日本国内で宿泊や飲食、買い物などに支払う金額は、サービス輸出の一部として計上されます。一方、景気動向指数では、個人向けサービス活動や小売業の指標も採用しています。
訪日外国人の消費は、これらの国内の経済活動にも反映されるため、サービス輸出の指標からインバウンド部分を除くことは、重複する影響を抑えるうえでも意味があります。ホテルや航空、鉄道、百貨店、飲食などの業績を考える際には、訪日外国人数や旅行消費額、客室稼働率などを別途確認することが大切です。
新しい景気動向指数では、経済活動を重複して捉えないよう工夫しながら、財とサービスの動きを幅広く取り込もうとしています。
12指標の新DIで捉える景気変化の広がり
加えて今回の見直しでは、CIだけでなくDIの構成も変わります。現行のCIとDIは同じ10指標を使っていますが、新CIは17指標、新DIは12指標となります。
新DIでは、生産や企業利益、所得、サービス活動などに加えて、新規求人数、労働投入量指数、雇用保険受給資格決定件数といった雇用関連の指標を採用します。新CIが経済活動の量的な変化を捉えることを重視するのに対し、新DIは景気変化への感応度を重視した構成です。例えば、景気が減速する局面では、企業の受注や生産が減少し、残業時間や求人の動きにも変化が表れることがあります。
さらに需要の低迷が続けば、雇用や所得への影響が広がる可能性もあります。新DIでは、こうした変化が経済のさまざまな分野に及んでいるかを確認しやすくなると考えられます。人手不足が続く環境では、企業が生産を減らしても雇用を維持することがあります。業種によって景気変動の影響が表れるタイミングも異なるので、DIの動きだけで景気後退を判断するのではなく、CIと合わせて確認すると良いでしょう。
新CIと新ヒストリカルDIで判定する景気の山と谷
今回の見直しは、毎月の景気判断だけでなく、景気循環の転換点を決める方法にも関わります。日本では、景気が拡大から後退に転じた時点を景気の山、後退から拡大に転じた時点を景気の谷と呼びます。
これらの転換点は、後から経済指標を検証し、景気基準日付として設定されます。新しい判定方法では、景気変化の広がりを示す「新ヒストリカルDI」と、変化の大きさを示す新CIを組み合わせます。
後退局面では、新ヒストリカルDIが50%を下回った直前の月を景気の山の候補とし、その後、10%台以下まで低下するなど、景気悪化が広い範囲に及んだかを確認します。さらに、新CIの低下が過去の景気後退局面と同程度の規模であるか、景気の後退局面が5か月以上続いているかなども判断材料となります。
こうした基本的な考え方は、現行の判定方法を引き継ぐものです。投資家として知っておきたいのは、景気の山や谷が正式に認定されたときには、株式市場がすでに次の景気局面を織り込んでいる可能性があることです。例えば、景気後退が続いていても、金融緩和や企業業績の回復が期待されれば、株価が先に上昇することがあります。反対に、景気が改善している段階でも、将来の利益成長が鈍化すると見込まれれば、株価が下落する可能性があります。