はじめに
物価高が続く一方、企業の好決算や設備投資、インバウンド消費が日本経済を支えています。こうした景気の変化を捉える「景気動向指数」に、2027年から新たなCI・DIが加わります。何が変わり、投資家はどう読み解けばよいのでしょうか。新指数の仕組みと、投資判断で注目したいポイントを解説します。
2027年から変わる景気動向指数
日本では業績相場で企業の好決算が相次ぎ、株価を支えています。しかし私たちの生活では物価高による負担が続いており、インフレがニュースなどで扱われることも増えました。賃金が上がっても、食品や日用品の値上がりによって、以前より生活に余裕がなくなったと感じる方もいらっしゃるでしょう。一方で、半導体やAI関連企業では設備投資が拡大し、訪日外国人による消費も日本経済を支えています。
このように日本の景気が本当に良くなっているのかは、どの経済活動に目を向けるかによって印象が変わります。そこで、経済全体の動きを客観的に捉えるために使われているのが、内閣府の「景気動向指数」です。
実は、この景気動向指数が、今後大きく変わる予定です。2026年7月23日に開催された第22回景気動向指数研究会では、これまでの景気判断の仕組みを見直し、新しい「CI一致指数」と「DI一致指数」を導入する方針が示されました。
2027年4月分から新CI一致指数と新DI一致指数を参考指標として公表し始め、将来的には正式な景気判断にも採用する方向です。現行の指数から正式に切り替える時期は、今後の景気の山の判定などを踏まえて決まります。
統計の計算方法が変わると聞いても、投資にはあまり関係がないように感じるかもしれません。しかし、景気の動向は日銀の金融政策や企業業績の見通し、株式市場の投資家心理にも関わってきます。今回の見直しによって、日本経済のどのような変化が捉えやすくなるのでしょうか。
投資家として知っておきたいポイントを、身近な例を交えながら見ていきたいと思います。
景気動向指数のCIは「大きさ」、DIは「広がり」
そもそも、景気が良い、悪いというのは、何を基準に判断しているのでしょうか。例えば、自動車の生産が増えていても、小売店の売上高が落ち込んでいることがあります。輸出企業の利益が伸びる一方で、国内のサービス業では人手不足や人件費の上昇が経営を圧迫しているかもしれません。一つの経済指標だけでは、日本経済の全体像を捉えることはできません。そこで内閣府は、生産、雇用、販売、企業収益など、景気に敏感に反応する複数の指標を組み合わせ、景気動向指数として毎月公表しています。
景気動向指数には「CI」と「DI」という2つの種類があります。
CI
CIは「Composite Index」の略で、複数の経済指標の変化を合成し、景気変動の大きさやテンポを捉えるものです。例えば、鉱工業生産や小売販売、企業利益などが大きく伸びれば、CIの上昇につながります。反対に、これらの指標が大きく落ち込めば、CIも低下しやすくなります。
ここで知っておきたいのは、CIの数値そのものが景気の良し悪しを直接表しているわけではないということです。現行のCIは2020年を100とする指数です。仮に120という数値であっても、それだけで「景気が20%良い」とは判断できません。指数がどのような方向に動いているのか、変化の大きさはどの程度なのかを確認することが大切です。
DI
DIは「Diffusion Index」の略で、景気の改善がどの程度広い範囲に及んでいるかを示します。例えば、10の経済指標のうち7つが改善し、3つが悪化していた場合、単純化するとDIは70%になります。実際のDIでは、変化のない指標を半分として計算するなどのルールがありますが、基本的には改善している指標の割合を示すものと考えてよいでしょう。
CIとDIで分かる景気の「大きさ」と「広がり」
CIが景気変動の大きさを捉えるのに対して、DIは景気変化の広がりを捉えます。この違いは、株式市場に置き換えると分かりやすいと思います。日経平均株価が大きく上昇していても、実際には半導体関連など一部の値がさ株だけが買われ、値下がり銘柄の方が多い日があります。一方、日経平均の上昇幅は小さくても、銀行、建設、小売、機械など幅広い業種の株価が上昇していることもあります。
前者は一部の銘柄が指数全体を押し上げている状態ですが、後者は買いが市場全体に広がっている状態です。景気動向指数でも同じように、景気の動きの大きさと、改善している分野の広がりを分けて見ることが重要です。ただし、DIが80%だからといって、景気が非常に強いという意味ではありません。多くの指標が改善していても、一つひとつの改善幅が小さい可能性があるためです。
CIとDIを組み合わせることで、景気がどの程度変化し、その変化が経済全体にどれほど広がっているのかを確認できます。
「先行」「一致」「遅行」で捉える景気の時間軸
景気動向指数には、CIとDIという区分に加えて、「先行指数」「一致指数」「遅行指数」という3つの分類があります。
先行指数
景気に先行して動く傾向がある指標を集めたものです。例えば、株価や新規求人数、機械受注、消費者態度指数などが含まれます。企業が将来の需要増加を見込んで設備投資を計画したり、人員を増やそうとしたりする動きは、実際の生産や消費が増える前に表れることがあります。株式市場も将来の企業業績を織り込んで動くため、先行指数の構成指標に採用されています。
一致指数
景気の現状を確認するための指数です。鉱工業生産や販売額、企業利益、雇用関連の指標などが使われています。
遅行指数
景気の変化から少し遅れて動く傾向のある指標を集めたもので、景気の局面を事後的に確認する際にも参考になります。
投資家としては、先行指数と一致指数の関係に注目したいところです。例えば、一致指数が上昇を続けていても、先行指数が低下し始めている場合、現在の景気は改善しているものの、先行きには減速の兆しが出ている可能性があります。反対に、一致指数が低迷している段階で先行指数が持ち直してくれば、景気回復への期待が株価に先に反映されることも考えられます。
ただし、先行指数は将来の景気を確実に予測できるものではありません。特に株価が大きく変動した場合には、実体経済に変化がなくても先行指数が動くことがあります。複数の経済指標を組み合わせて、景気の先行きを考えることが大切です。
なお、今回の見直しで新たに作成されるCIは一致指数のみです。先行指数と遅行指数については、新DIを作成する方向となっています。